RKRN小説/長編 | ナノ
作品


 死装束

まるで初雪蔓のような一面の雪景色。

あいつの最期の姿のようだと思いながら長次は忍たま長屋の縁側から外を眺めていた。


やっと静かになった…。

あいつがいた頃には想像も出来なかった無音の感覚だ。
それに先ほどまでの慌ただしさが嘘のように今は静かになった。

どうせ騒がしいのなら、いつもの日常の騒音なら良かったのに。



やめてくれ…。
あからさまにそんな態度を取られると現実を認めざるをえなくなる。

みんな黒い衣に身を包み、冷たくなったあいつの元へ行く。


そろそろ儀式が始まる頃だろうか…。

あいつの最期を見届けなかった俺は最低の同級生だろう。
あいつは俺を親友と言ってくれたのに線香のひとつすら上げる勇気がないなんて。



「長次」

「…伊作」

「やっぱり此処にいたんだ」

「………」


もう行ったと思った同級生がいつの間にか縁側に立っていた。
いつもと違う所と言えば、やはりこの男も黒装束に身を包んでいた。


冷たい空気が流れる。

いや、俺がわざと冷たい沈黙を流している。
出来るなら誰とも話したくなかった。


「長次はいかないの?小平太の葬式」

「…俺が行って何になる?」


(やめてくれ)


「文次郎も来てないんだ」


(早く黙らなければ)


「文次郎も長次も仲間の最期を見届けないで後悔しない?」


(俺は友人にさえ)


「小平太、仙蔵の死化粧で凄く綺麗になってたよ。本当にただ眠っているみたいに穏やかに永眠ってた」


(絞首してしまう…)


「長次の考えてる事なんて分かるさ」

「……」

「でも長次は僕を殺せないよ。殺したら一番辛いのは君自身だって分かるから、僕は君に易々と殺されない」

「…伊作……」

確かに伊作の言う通りかもしれない。
自分では自覚など無かったが言われて否定も出来なかった。

「…俺は忍者失格だな……。仲間の…想い人の死すら受け止められないで。小平太がこの世からいなくなっただけでこんなにも心が痛いなんて…」

「人間としては合格だよ。忍者としてもきっと…だって忍者も正心だろ?」


あぁ…この男は俺が欲しいとする言葉を惜しみもなくくれる。

大切なものを失った自分を誰かに助けてほしかった。
それで完全に救われるという保証も無かったが、一時だけでも優しい言葉が欲しかった。

いつもは同室者のあいつがくれたのに。


「…伊作……」

「ん?」

「…ありがとう、お前に会えた事を感謝している……」

「それは僕もお互い様だよ」


中庭を眺めると厚い雪雲の間から陽が姿を現した。
降り積もった雪も少しづつ融けていくのだろう。

そして次の季節には……。


「じゃあ僕は小平太の葬式に戻るね。長次と文次郎は欠席だって厚着先生に伝えてとく。全く留三郎の予想した通りだったよ。『長次と文次郎は絶対に来ない』って。仙蔵が怒ってたけど上手くフォローしてとくから今日の夕飯のひじきと煮豆ちょうだいね」

「…あぁ、了承した……」


そう言うと伊作は行ってしまった。
とっくに葬式は始まっていたのか。途中に抜け出させて悪かったと思いつつ今日の夕飯を想像する。

今日を最後にひじきを取られる心配も煮豆を勧められる心配もないのだろう。
それがこんなにも寂しい事だと知らなかった。


「…あいつも今頃偲んでいるのだろうな……」

あいつとは今更言わずとも分かるだろう。
俺が変な虫が付かぬようにずっと大切にしていた小平太の恋人として、渋々ながらも認めた唯一の男だ。


きっと文次郎はあそこにいる。
いつも小平太と登っていた忍術学園が一望出来る裏山の大きな大樹に。
小平太との今までの想い出を偲んでいるのだろう。

文次郎も俺も所詮は同じ穴の狢。
俺が行ったところで対して変わりはしないだろう。
どうせなら二人で想い出を語り尽くそうか。


そう考えると長次は裏山へと走っていた。



******



忍たま長屋のろ組の部屋はもう長次だけの個室になった。

以前の同室者の荷物はそのままに。
バレーボールも塹壕用の苦無も持ち主が使ったそのままの状態で置いてある。


今夜は此処で偲びの宴会が始まる。
一人いなくなったいつものメンバーで今までの想い出を語り合いながら。

それを我々は『黄泉桜の宴』と詠んだ。


⇒END

小平太がいなくなってから六年生の卒業カウントダウンが始まります。
そして黄泉桜の宴をした三日後に潮江氏が病み始める。という妄想。
我ながら救いようのない展開に引く…←


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -