RKRN小説/長編 | ナノ
作品


 不調〜夏雪蔓が降る頃に〜

まだ残暑が厳しいというのに少し肌寒い。
季節外れのかじかむ両手をさすりながら小平太は廊下を歩いていた。

しばらく鍛錬をしていなかったせいで自分らしくもなく寒気を感じる。今日は少し無理をしてでも体を動かそうと思っていると急に目まいが襲い、よろけながらも咄嗟に壁に手をついた。なぜだか目の前がぼやけてよく見えない。
息苦しくて精一杯深呼吸をしようとするのだが、出るのはヒューヒューといった笛声音のみだった。
ついでいきなり嘔気がした。さすがにここではヤバいと動かない体に必死に命令してなんとか近くの厠へと駆け込み何度も吐き出した。
朝食を全部吐き出して胃には何も出ないはずなのにまだ嘔気がする。

「…小平太?」

厠の外で誰かが呼ぶ声が聞こえるが、声の主が分からない。
目の前の視界がグルグル回っているみたいで気持ち悪い。精一杯呼吸をしているつもりなのに海に溺れたように苦しい。
涙交じりの目でしばらく屈み、厠に閉じこもった。

どれくらい経っただろう。なんとか目まいと嘔気が引いて、未だに辛い体を起こして口元を右腕の袖で拭いながら厠を出るとすぐそばに文次郎が立っていた。

(――ああ、さっき私を呼んだのは文次郎だったのか)

文次郎は小平太を見るといつもの強面な顔が一変ひどく驚いた顔をした。
それもそのはず目の前の親友はいつもの明るい笑顔が嘘のように、蒼白した表情に辛そうにうるんだ瞳、口中に血がこびり付き、忍び装束の袖にも血が付着した姿でどうにか立っていたのだから。

小平太は文次郎の顔を見ると安心したように微笑み、そのまま気を失った。
咄嗟に文次郎が小平太を抱き留めるが、体重の軽さに更に驚く。

「おい、小平太!しっかりしろ!」

軽く頬を叩くが目覚める様子はない。
どうしてこうなるまで放っておいたのかという怒りとどうしてもっと早く気付いてやれなかったのかという罪悪感にとらわれながらも、そんな思考は後回しだと小平太を抱え直し、本日の当番は伊作のはずだと医務室まで慎重に走った。


⇒next


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -