RKRN小説/長編 | ナノ
作品


 遺書と遺言

小平太の葬儀は少数の教師と伍六年のごく一部の生徒のみで淡々と片付けられるようにして行われた。
文次郎は委員会や卒業試験の自主勉を理由に最後まで葬儀の出席を拒んだが、仙蔵と伊作の説得でやっと重い腰を上げ、会場である作法委員室へと足を進めた。

葬儀といっても誰も喪服なんて大した装束は身に付けない。制服である忍び装束のみだ。そのせいで普段から教師陣が着ている黒い忍び装束が妙にさまになっていた。

葬儀は30分も経たずに終わり、次に一部の教師陣のみで火葬が行われた。
裏山の何処かで行われるらしいが儀式中は生徒立入禁止のため誰も参列できず学園の中から見守るしか出来なかった。



数時間後、裏山の何処からか一筋の煙が空へと高く昇っていく。
それを名残惜しそうに忍たま長屋の縁側から伊作・留三郎・仙蔵・文次郎が見つめていた。

「小平太、とうとう長次の元へ逝っちゃったね」

「あいつの笑顔、もう一度見たかったな」

「輪廻が途切れない限り、何処かで会えるやもしれん」

「………」

ふいに六年の耳に伍年生らしい生徒の声が聞こえてきた。
伊作達が伍年の声がした方へ眼を向けるといつも五人でつるんでいる奴らが見えてくる。
その中の1人、八左ヱ門がいつもの根明な性格が嘘のように泣いていて、それを慰めるように両側から雷蔵と兵助が背をさすっていた。
三郎と勘右衛門は対して何もしていないが真剣な表情でからかう様子もない。
伍年はそのまま寄り添うように歩きながら六年の前を軽く会釈するだけで通り過ぎて行った。

六年生は八左ヱ門の流す涙が小平太の死を偲んでの事だとは解ったが、だが小平太と八左ヱ門はそこまで仲が良かっただろうかと疑問符をうかべた。
ただ1人、文次郎を除いて。






忍びのたまごの死は葬儀と火葬で終わりではない。
最後にその生徒が使っていた長屋の掃除、私物の処分が残っていた。
部屋は出来る限りの傷は全て修補して以前の住人の痕跡を全て消さなければならない。
それは仲の良かった六年四人の仕事であり、旧友の私物や痕跡を見る度に持ち主を想いながらも、処分と共に過去を捨てろという暗黙の実習のようなものだった。

そういえば長次が使っていた私物もそのまま置いてあったものだから量が多い。
長次が着ていた私服と一部の日記は長次の両親へ形見として残し、それ以外は全て撤去した。

対して小平太は壱年の頃に家族と死に別れたせいで身寄りもない。
小平太個人の荷物は驚くほどに少なかったからそれほど時間もかからなかった。
ふいにろくに使っていない小平太の文机の引き出しから一枚の紙切れが出てきた。
文次郎は訝しげにその紙切れを開くと懐かしい長次の文字で図書委員会の予算で購入したかったらしい本の題名がいくつか書かれていた。その下にあまり綺麗とはいえない小平太の文字で『バレーボールと耳栓』と書かれていた。

そういえば以前小平太とそんな会話をした気がする。
懐かしい気持ちになって文次郎はその紙切れをそっと懐にしまった。

























数日後、長次の両親だという夫婦が学園に訪れた。
学園長の庵で話をし、長次の遺物を大切そうに抱えて寄り添いながら帰って行った。

本当は遺骨を帰し、遺物は全て処分しなければならなかったが伊作や仙蔵の説得で特別に学園の西隅にある墓地に葬られることが決定した。
そこは実習中に亡くなり、かつ戦災孤児や縁切り等で実家に帰れない忍たま達が永眠る場所だ。
周りは木や苔に覆われ真夏の昼間でも薄暗く、一定時期になるとキツネノカミソリや彼岸花が一切に咲き誇る幽霊や妖怪といった物の怪が苦手な生徒はもちろん、教師陣もあまり寄り付かない場所だった。

こんな所に小平太を独りで永眠らせる訳にはいかない。
せめて長次と一緒にしてやりたいと小平太の遺骨と長次の頭蓋骨を寄り添わせるように埋めた。


心魂は天空へ、身体は地中へ

跳ぶように走り回るのが好きな一方、学園中に塹壕を掘りまくるのが好きだった小平太。
心魂は高くて遠い場所まで跳んでしまって、身体は土の中で眠ってしまい二度と彼が戻ってくることはない。

最後に二人が永眠る土の上に石を置く。
伊作が季節外れで一輪だけ咲いていたらしい忍冬の花を石に捧げると皆で手を合わせた。
いつにも増して寒いと思ったらふいに雪がしんしんと降り出し一層体温を奪われる。

すぐにここも真白な世界に覆われるだろうと皆で長屋の方へと足を進めた。
文次郎はちらっと長次と小平太の墓へ振り向くと忍冬の花が雪の結晶のように石の上で映えていた。


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やっぱり話のどこかで忍冬を出したい管理人。


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