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作品


 暴花事件

事件は突然起きた。


もうすぐ一時限目が始まる時刻。
各自の教室には生徒が揃いだす時間帯でもあった。

文次郎も自分の席に座り、授業の準備を始めた。
相席の仙蔵は教室前の廊下で級友達と世間話をしているようだ。

突然、隣の六年ろ組の教室から物が倒れる音や悲鳴、怒鳴り声が響いた。
級友達が何事かと廊下に出ていく。
文次郎も気にはなったが授業ももうすぐなので野次馬はやめておこうと思ったのだが、一足早く帰って来た仙蔵の一言に一瞬言葉を失った。


「小平太が壊れたぞ」





気付けばろ組の教室まで走っていた。
教室の中は無残に机が倒れていたり、生徒が隅や廊下に避難したり、床には花瓶が落ちていて周辺には水たまりも出来ていた。

そして教室の中央には馬乗りになって級友を一方的に殴り続ける小平太の姿があった。

「小平太やめろっ!!」

小平太を止めるのは至難の業だと誰もが遠目に避難していた。
だが文次郎はいつも小平太と鍛錬をしていた仲、止める自信はあった。

案の定文次郎が小平太の肩を強く引いて、自分への方へ体を向けると小平太の暴力はピタっと止まった。
でも、またいつ暴走するか分からない。
小平太の両手は拳をつくり、傍らでも分かるほどに震えていた。
どんなに走り回っても息の乱れない小平太の呼吸が荒い。
瞳もいつもの笑顔が嘘のように血走っている。

本当にこいつは、小平太なのだろうか――。


「小平太、どうしたんだ?」

落ち着かせようと極力静かな声色で訊ねる。
小平太も答えようとするが息が上がっていてなかなか聞きとれない。

「お前が理由もなしに、暴力なんかせんだろ」

再度訊ねる。と小平太は文次郎をキッと睨みつけた。

「私は何も悪くないっ!!あいつが悪いんだっ。あいつが、笑えない冗談をするからっ!!ふざけんなっ」

叫ぶように言うと、小平太は文次郎の腕を振り解き、先程殴り倒した生徒の元まで走る。
被害者の生徒は級友に軽く処置をされている最中だったが、座っているのがいけなった。再度小平太に捕まってしまった。
今度は文次郎と処置をしていた生徒達で必死に小平太を押さえつけようとした。
だが小平太は周りには一切目も向けず、まるで存在しないかのように被害者だけを睨みつけ殴る蹴るの暴行を加えた。


その時。教室の後ろから静かに、だがはっきりとした声が響いた。

「それ以上暴れたら長次が悲しむぞ。小平太」

振りかえると其処には腕を組む仙蔵と、いつの間にいたのか食満と大きな包みを抱えた伊作が立っていた。

仙蔵の言葉に小平太はピタリと止まり腕を下ろした。
目線も今は床を見つめているような、何も見えていないかのような視点のあってない表情だった。
壊れてしまったのか不安になり、文次郎は小平太の背中を優しく撫でると小平太はしゃくりあげるような声で小さく言った。

「教室に来たら、長次の席に花瓶があったんだ…。それも仏花が供えてあって…こんなのイジメじゃないか。お願いだから悪い冗談はやめろよ…、恐い…。早く…頼むから早く帰ってきて…長次」


よく見ると教室の隅にシキミと菊の花が四本落ちていた。

何も言えなかった。
先程まであんなに暴力を奮っていた小平太の心が実はこんなに弱々しいものだったなんて。
暴力の心理は怒りにすぎない。そして、怒りの心理は不安にすぎない。

被害者の生徒も小平太の気持ちに気付き、素直に謝った。

もうこの世にいない仲間の席が寂しくて、花が大好きだった長次の為に仏花を供えただけの級友。
だが、長次がこの世にいないことが理解できなくて、ただ混乱して我を忘れてしまっただけの小平太。

お互いに決して悪気はなかった。
誰も悪くなかった。


いや。
もっと早く小平太を現実の世界に連れ戻していたら、こんな事件は起こらなかったかもしれない。

(俺がしっかりしていれば…)

もう過ぎた過去は終わりだ、と文次郎は決心した。

これから先どうなるか分からない。
だが、これ以上過去の思い出にしがみ付くのはいけない。
その時は幸せだと思っても、後々それは辛いものになってしまうのだから。


被害者の生徒は漸くろ組の保健委員に連れられて医務室へと向かった。

去り際、小平太に再度謝っていた。

「小平太。文次郎。これから授業が始まるのは分かってるけど、どうしてもすぐに話しておきたい事があるんだ。今から僕と留三郎の部屋に集合してくれないかな」

言うなり伊作、留三郎、仙蔵は教室を出ていった。
少し離れて文次郎と小平太も教室を後にする。

伊作の抱えている風呂敷は時折カタカタと音が鳴っていた。



⇒Next

正直うpしようか何日も悩みました。
次回はもっと後味悪い展開になりそうな勢いです…。

なんかもう、本当にすみません。


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