RKRN小説/長編 | ナノ
作品


 真夜中の灯火

あの事件からすでに三日が過ぎた。

相変わらず小平太は平常心をまとっていて、見ている周りの方が恐かった。

あの日小平太は言った。
『長次はすぐに帰って来る。安心して帰れるように学園で待っていよう』と。

そんな筈がないのは周りも、恐らく小平太自身も気付いてはいる。
だが現実を認めたくないのだ、この同室人は。

ある深夜、六年ろ組長屋で口喧嘩が響いた。
粋なりの大声に文次郎は慌てて飛び起きて廊下へ出たら、小平太と小松田さんが言い争いをしていた。

「あ、もんじっ!!」

文次郎に気付いた小平太が夜にも関わらず大声で呼ぶ。
小松田さんも頬を膨らませたまま文次郎に視線を向けた。

「あー!!文次郎くんも注意してやってよ」

「七松が何かしたのですか?」

「あのね、消灯時間はとうに過ぎてるのにまだ灯りを付けてるんだよ。六年生も来週まで昼間演習が続くんでしょ?油も勿体無いし、夜更かししたら授業に差し支えるから注意したんだよ」

「私は悪くない!!小松田さんが細かいんだよ」

「バカタレぃ小平太!!お前は日頃から大雑把過ぎんだよ。小松田さん、こいつには俺からキツく言っておきますので」

「そう?ならお願いするね。僕は残りの巡回をしてくるから。油も高いんだから節約してもらわないと困るよ」

言いながら小松田さんは去って行った。

小平太は未だ納得がいってないのか不機嫌な顔をしている。
膨らんだ頬を指先で軽く突いてやると今度はびーびー文句を言いだす。
それには構わず二人でろ組長屋へと入った。

中に入ると予想はしていたが、ご丁寧に布団が二組敷かれていた。
小平太自身のと、長次のだろう。
文次郎は一瞬やるせない気持ちになったが、すぐに平常心に戻り小平太に注意した。

「そりゃあ小松田さんが言ってたことも間違ってないよ。でも私も間違えてない。長次を待ってるだけなのに、なんで叱られなきゃいけないんだ?」

「小松田さんも仕事をやりとげたいだけなんだろうよ。兎に角、相手は年上なんだ。お前も其処は自覚しろ」

「分かってるよ。…でも、長次はまだ帰ってないんだ。私が忍務でどんなに遅い時間になっても長次は灯りを灯して待っててくれたんだ。だから迷わずに帰れた。今度は私が灯して待っていないと。長次は小松田さんに注意されたことないのかな?」

そういえば今まで何度かろ組長屋で小松田さんの説教が聞こえた気がする。
今日みたいに騒がしいものではなかったので特に気にしていなかったが長次のことだ。
委員会の仕事だとかなんとか言って上手く交わしてきたのだろう。

「待つってお前、まだ起きてるつもりなのか?暫くは昼間演習なんだろう。寝れる時に寝とかないと身体が持たねえだろ」

「文次郎がそれを言うか!?」

「うるせえ!!」

普段の生活が災いして言い返されてしまった。
いつもなら可愛いこいつの可愛くない態度に頬を抓ってやるのだが、無理やり日常を演じているのが見え見えで、言葉しか返せなかった。

「ったく、お前だけじゃ不安だから俺もいてやるよ。長次がいつ戻ってくるかも分からんが学園一ギンギンに忍者してる俺なんだ。寝ていても長次の気配くらいすぐに分かるからな。そしたらお前を起こしてすぐに灯りを付けたら長次も迷わずに戻ってくるだろ?」

「もんじ本当!?」

途端に小平太が笑顔になり抱きついてくる。
それに合わせて文次郎の心音も激しくなり、すぐに肯定して逃げるように長次の布団に潜ろうとしたら小平太に阻止された。

「もんじ、それ長次の布団。きっと疲れて帰ってくるんだよ。折角天気が良いから外に干したのに、もんじが最初に寝たら駄目だよ。だからさ、私と寝ないか?」

「……はぁ!!?」

思わず素っ頓狂な声を上げたが「ただ寝るだけなのに何おかしな顔をしてるんだ」と笑われてしまった。
小平太の表情からも決して変な意味には到底見えない。
これだから鈍いやつは困る…と思いながらも肯定して、小平太の布団にお邪魔した。

布団の中は太陽の匂いがした。
温かいはずなのに小平太は寒いと呟いて文次郎に抱きついた。
心音がまた激しくなり、相手に聞こえないかヒヤヒヤしたが小平太は気付いていないのか何も言わなかった。
ただ一言ありがとう…とだけ。



真っ暗な長屋の一室。
騒々しいことが大好きな小平太にこの空間に一人でいるのはどんなに寂しいものだろうと、今更ながらに考えた。
例え真っ暗な空間で、何も見えなくても何も聞こえなくても、他人の気配があるのとないのとでは全然違う。

壱年の頃は本当に一人が嫌いで迷子になってはびーびー泣いていた。
文次郎も幾度となく小平太捜索に狩り出されていたから覚えている。
発見した時には小平太が泣きながら抱きついて離れないのは子供心ながらに可愛いと思った。
複数人で発見した時は必ず長次に抱きついていたのだが…。

すぐに寝いったのか小平太の小さな寝息が聞こえる。
文次郎の寝衣にギュっとしがみついて眠ってる様は可愛くもあり悲しくもあり複雑だった。
戸惑いがちに小平太の背中に手を回し、軽く抱きしめる。

「――…」

寝言とはいえ、小平太の口から紡がれた彼の恋人の名前に文次郎は複雑な気持ちが膨らんだ。

これ以上傷つけたくはないが、いずれ現実に連れ戻さなければいけない。
それが出来るのは文次郎だけだと、いつもの仲間に軽く背を叩かれた。
きっと長次の遺言にも、この難問が含まれているのだろう。



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小平太と小松田さんは基本仲良し。
でも意見が食い違うとどっちも融通がきかない。

文次郎がヘタレ…だと??


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