RKRN小説/長編 | ナノ
作品


 始まりの終り

あの時、戦場に行かなければ
お前は今も生きていたのだろうか――?



その日の六年生の忍務は、とある悪徳非道な城主の暗殺だった。
学園の長にそう告げられた六人の忍たまは細かな計画を練り、闇に紛れていった。

は組の伊作と留三郎は城外の軍を抹殺し
い組の仙蔵と文次郎は城内に罠を張り
ろ組の長次と小平太は城主の首を頂戴する。
計画のはずだった…。








「長次。大丈夫かっ?」

「…ああ。小平太の方こそ怪我はないか?」

「全然!返り血を浴びただけだから、私自身は掠り傷もないぞ」

「…そうか。良かった」

忍務は無事成功した。
城主は悪徳非道の割に弱くて、自分たちの武器を見た途端に許しを請うていた。

『悪かった』

『もう二度としないから命だけは助けてくれ』

謝るくらいなら最初からしなければ良かったのに。
城主の癖に弱くてオドオドしているのが馬鹿らしくて笑えた。
だけどそんな懺悔の言葉くらいでは城主の罪は償えない。


忍者にとって一番大切な”忍務”を遂行するために、私たちは武器を振り上げた――。








二人の静かな呼吸が響く。
身体が熱くて頭に血が上るような感覚だ。
なんだか焦げ臭い臭いもする。

嫌な予感がした小平太は咄嗟に長次の袖を握りしめた。

「長次、帰ろう」

「…ああ」



焦げ臭い臭いは城が炎上していたものだった。

計画では皆が城を脱出した後、仙蔵が城を爆破するという流れだった。
しかし、現に城内は火の渦になっている。
焙烙火矢などの爆発音は聞こえなかった。
後に知ったのだがこの火事の犯人は城主の妻が助からないと悟り、せめて皆殺しにと放火したものだったらしい。

こんなに大きな城なのに火の回りが速い。
まさか上火でもしたのだろうか?

「っ!小平太っ!!」

「えっ?」

疾風のように駆け走る小平太に長次が叫んだ。

大きな柱や瓦礫が小平太めがけて落下する。
思わず足がすくんで動けない体で柱を見上げる小平太に突然強い衝撃が襲った。
間一髪で瓦礫を避けて床に転がり落ちる。

痛かったがそんなことは気にしていられない。
咄嗟に衝撃の元を見てみると、先程まで小平太のいた場所には長次が柱や瓦礫の下敷きになっていた。
先程の衝撃は、長次が小平太を庇おうと全身で体当たりしたものだったのだ。

「長次っ!!」

長次の頭からは血がドクドクと溢れ出ている。
柱や瓦礫はひとつひとつが大きくて重たくて、いくら体力に自身のある小平太でも退かせそうにもない。
周囲には燃え盛る炎が迫っていた。

小平太は血の気が引いた表情でただひたすら「長次!!」と叫んだ。

「…小平太。お前だけでも逃げろ」

「いやだっ!!長次と一緒に帰るんだ!!」

無駄だと分かっていても瓦礫を取り除く手を止めない。
その時、何処からか慌てた文次郎が走ってやって来た。

「小平太っ!!長次っ!!」

「もんじ……長次が…ちょーじがぁ」

なかなか帰ってこない二人を心配して文次郎が城内を探していた。
まさかこんな事態に…と文次郎も絶句したが、それ以上に慌てふためく小平太は混乱し泣いていた。

「長次!!死ぬなっ」

此処にいる皆が分かっていた。
長次は助からない。いや、助けられない。
でも小平太はそれを認めたくなかった。

どんどん火の海が迫ってくる。

「…小平太。お前だけでも逃げろ…」

「嫌だっ!!長次と一緒に私も死ぬっ!!」


「…幸せになってくれ。…文次郎、小平太を頼む…」

「…ああ」

「嫌だぁぁ!!長次ぃぃっ!!!」

文次郎は小平太を抱えてその場を離れた。
小平太は全身で拒否したが文次郎に背負われるように身体をガっシリと抱えられ、叫ぶことしかできなかった。
そんな小平太を長次は優しい笑顔で見つめていた。

だんだん小さくなっていく長次の頭上に次々と燃え盛る瓦礫が落下する。
小平太は叫びながら長次のいた方向を見つめ、届かない手を思い切り伸ばすしかなかった。















「文次郎!小平太!無事だったか!?」

城を一望出来る山まで走ると其処には留三郎、仙蔵、伊作が待っていた。

「全くお前というやつは、粋なり城の奥に走っていくなんて馬鹿か」

仙蔵が呆れた顔でいうが文次郎は何も言い返さない。
神妙な文次郎と生気のない小平太と不在の長次に疑問を抱き、伊作が問いかける。

「ねえ、文次郎。長次は?一緒じゃなかったの?」

「………」

文次郎は何も言えなかった。
言わなければいけないことだとは重々承知だ。
だが小平太の前で、長次の最期を口にするのに戸惑った。

「まさか…」

察知した留三郎が咄嗟に呟く。

出来れば違っていてほしいと願いながらも皆の予感が一致する。

ここから先は此処では言うまい…と誰もが思ったが一番意外な人物が答えた。

「留三郎。長次はすぐ戻ってくるよ。まだ城に用事があるんだ。長次が安心して帰ってこられるように先に学園に戻って待っていようよ」

まさかそんなはずはない!と思い文次郎が小平太を見つめるが、小平太はすでにいつもの笑顔だった。

肯とも否とも言うことさえ、今の文次郎には恐ろしかった。


思えばこの時が残された時間の始まりだった。



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