甘酸っぱい
「ねぇねぇ長次!」
ある冬の昼下がり、
長屋で一人、本を読んでいた長次のもとに、こぶし程の大きさの冬蜜柑を二つ抱えた小平太が、息を弾ませて飛び込んできた。
「見て見て!この蜜柑!食堂のおばちゃんからもらったんだ!除雪してくれたご褒美だって!」
そう言って満足そうに微笑みながら、小平太は長次の隣にちょこんと腰を降ろし、その橙色の実を床に転がした。
冬も真っ盛りな今日この頃、忍術学園にも真っ白な雪が積もり、体育委員会で食堂の周りを除雪するようおばちゃんから頼まれたのだった。
「うまそうだろ?早速食べようよ!」
「…ああ」
そう返事をした長次は、実のところ蜜柑よりも、蜜柑を見て目をキラキラと輝かせている小平太の方に心を奪われてしまっているのだが、当の小平太本人はそんなことには全く気が付かない。
目の前の蜜柑のことで頭がいっぱいなのだった。
「いっただっきま〜す!」
満面の笑顔でそう言うと、小平太は早速蜜柑の実を一つ取り、不器用そうな手つきで剥き始め、長次もそれに倣った。
柑橘の爽やかな香りが部屋中に漂う。
「わあ〜ん!上手く剥けないよぉ!」
間もなく小平太の悲鳴が上がる。
長次が小平太の手の中を見ると、そこにある先程まで蜜柑の形をしていたものは、もはや原形を留めていなかった。
果肉の詰まった小さな袋はズタズタに破け、果汁が溢れ出し、その長次のよりも小さな指は透き通った橙色の液体で濡れそぼっていた。
「いいなぁ、長次は上手く剥けて。いいなぁ」
小平太は羨ましそうに溜息をつきながら長次の膝に乗っている美しく一皮剥けた蜜柑を見て、そのまま視線を長次の目に移す。
そして何気なく、その果汁が滴り落ちる指を自分の口に持っていき、小さな赤い舌でペロッと舐めた。
まるで仔犬がおねだりをするかのような上目使いのつぶらな瞳。
甘酸っぱい果汁で濡れた唇。
長次はゴクンと唾を飲み込んだ。
ある種の衝動が呼び覚まされそうになるのを理性で押さえ付け、できるだけ平静を保ちながら、自分の膝の上の蜜柑をスッと小平太に差し出す。
「…やる」
「え?!いいの?!でも、長次の分が…」
小平太は一瞬顔を輝かしたが、すぐさま無惨な姿となった自分の蜜柑を見て、しょんぼりと肩を落とした。
その姿があまりにも可愛いくて、いじらしくて。
もう限界だ。
「…私はこれで十分だ」
そう言うと長次は小平太の手を掴み、自分の口許に引き寄せる。
「長次?」
そして、その果汁の滴る指に舌を這わせていった。
「ひゃっ!あは!くすぐったいよぉ」
指の間まで余すことなく丁寧に甘い蜜を舐め上げる。
その柔らかい舌の感触に、小平太は声をあげずにはいられなかった。
「っあ!…やっ…!」
ただくすぐったがっていたその声は、次第に甘ったるいものへと変わっていく。
両手を綺麗に舐め終わると、今度は真っ赤になっている小平太の顔を引き寄せ、果汁で濡れて輝くその唇に、ゆっくりと唇を重ねた。
唇に付いた果汁を舐めとると、長次の舌は更なる甘い蜜を求めて口内へと侵入し、口腔を撫で回す。
「…っ」
甘酸っぱさが二人の口内から全身へと広がり、痺れるような快感が生まれる。
長い口付けから解放されると、小平太は力無く長次の胸に頭を預けた。
「ちょうじぃ…」
甘ったるい声。
頬を赤らめ、自分を頼り寄り掛かってくる姿が愛しくて堪らなくて、長次はそのふさふさとした量の多い髪の毛を優しく撫でた。
「…15歳にもなって、蜜柑の皮も自分で剥けないなんて、仕方ない奴だな…」
だが、そこがまた可愛くて、世話を焼かずにはいられなくなってしまうのだ。
「だってぇ…あ〜あ、私いっつも長次に頼ってばっかだな。このままだと、長次がいないと何も出来なくなっちゃうよ」
「別に、構わない。お前の面倒は一生私がみる。だから、私以外の奴を頼るな」
「ほんと!?もぅ!長次だぁい好き!!」
そう言って小平太は長次に抱き着き、その自分のよりも逞しい胸板に頬を擦り寄せた。
「ああ…私もお前が大好きだ」
私もお前に頼ってばかりだ。
お前のその明るさを頼りに生きているようなものだ。
甘酸っぱい蜜柑の香りが立ち込める。
再び唇と唇を重ねると、先程よりも一層甘く、深く溶け合っていった。
END
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あとがき(言い訳)
『長次に甘える小平太と保護者っぽい長次』でリクエストいただいたのですが、ちゃんと保護者になっているでしょうか?(><;)
あの…最初はね、こへが蜜柑の皮剥けなくて、長次が代わりに剥いてあげてたら萌えるなぁ〜なぁんて考えて書いてただけなんですよ!
なのに、気づいたらこんな話に…orz
ご期待に添えているかどうか非常に怪しいですが、小鳥遊々様、どうぞ受け取って下さい!!!
もちろん返品可能です(>_<)
そしてこれからもよろしくお願いします*^^*
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うわぁぁ…///
全然イケますよっ寧ろ期待以上で読んでてドキドキでした〜(^O^)
正しく甘えたな小平太と保護者な長次をご馳走様っ!!
やっぱり冬ネタは良いデス素敵デスvv
蜜柑剥きが不器用なこへと手助け…というかちゃっかり美味しい所取りをしてる長次に萌え悶えました…///
ろ組良いなぁ〜癒されるなぁ〜vv
忍たまCPの中でも最強最高の萌えCPデスよvv
ミミさん相互記念を有難うございましたっ!!
これからも宜しくネvv