頂物小説 | ナノ
頂き物小説


 世界の全て
その男は影の差す部屋の隅で、膝を抱えて蹲っていた。
こちらに気付いておらぬはずもないだろうに、大きな体躯を丸めたまま振り向きもしない。
まるで大きな子供だ。拗ねているから更に性質が悪い。
それでも、小さくその名を呼べばその肩がぴくりと震えた。
続いた沈黙には耐えられなくて、聞いてもいないのに声だけが返る。
「・・・謝らないからな。」
今度はこちらが震える番だ。
暗がりに沈んだその瞳は、そうでなくとも背を向けているので見えはしない。
それでも、長い付き合いだ、口調だけでどういった表情をしているかなど、容易に想像が付いた。そうしてそれは、おそらくは間違ってはいまいだろう。
謝らないからな、男は二度繰り返して、断言する。
「私は悪くない。」
悪いのはあいつらで、私は悪くない。悪くない。悪くない。
悪いわけがない。
口には出さずとも、心中己に言い聞かせているのがよく解る。
悪くないと自分で言って、湧いてくる罪悪感を自分で殺して。
本当に、文字通り大きな子供だ。
己の非を認めようとしない。
けれどもそうなる時のこの男は、己を決して理由にしないのを知っているから、知らず胸中に鉛が落ちた。
部屋に踏み入って、近付いて、背後に立つ。
それだけで、そうと感じた男は触れてもいないのに一度大きく背を震わせて、泣き出すのではないかと思った。普段煩いくらいに笑顔でいるこの男の泣き顔は、けれども、思えばもう何年も見ていない。
喜怒哀楽を驚くほど自由に出すのに、いつからか涙だけはどこかへやってしまっていた。
「・・・・長次が庇ったってダメだからな。私からは、絶対、謝りに行かない。」
その強情さは、いっそ褒め称えてやりたいくらいの筋金入りだ。男は、こうと決めたら動かない。
「・・・・・・いくらなんでもやりすぎだと、伊作が怒っていた。」
「私は悪くない。」
「・・・・・腕と、肋骨と、・・もう一人の方は、片眼が潰れたらしい。」
「自業自得だ。」
ひとつ溜息。
「・・・・・・・・小平太・・・」
「ダメだダメだダメだ!」
蹲ったまま。振り向かないまま。
男は叫んで、なにかを振り払うように頭を振った。伸びるに任せたざんばらな髪の毛が、僅かに遅れて左右に揺れる。
「だってあいつらは・・・っ、長次をバカにしたんだぞ・・・・・!」
吐き出すような声音を、むしろこの男の心境を悼む思いで聞いた。
男の言う『あいつら』に悪気など無かった。ただ誰かを冗談交じり遊び感覚でからかうのに、その対象となったのがたまたま自分であっただけなのだ。
よくあることだ。感情表現に乏しい自分は、あまり人付き合いが得手ではないから、そういう対象にはなりやすい。かといって、それが本気でないと解っていれば、そう気にすることもないと思っているから、放っておく。
それが、この男は違う。
それを見付ければ―――たとえその場に自分がいなくとも―――諭す口より先に報復の拳が出る。しかもいけないことに、今まで負けは無い。ほとんどが一方的な喧嘩になるのだ。
当人である自分が、『気にしていないから許してやれ』と言ったところで無意味。『お前には関係ない』などと言えばむしろ逆効果。
一瞬前まで笑顔で巫山戯混じりに談笑していた相手も、その言葉次第で再起不能になるまで殴り続けられる男の肩を取って抱き寄せれば、思い出したようにくるりと振り向いた顔が胸に埋められた。
「・・・・・・・・あいつらが頭を下げれば、お前も、謝るか?」
「やだ。」
ぎゅうと思い切り抱き締められた背中にではなく、言葉に詰まる。
「良いんだ、仲直りなどできずとも、私には長次がいれば、」
長次だけがいれば、それで良いんだ。



 いつだったか、長次に言われたことがある。
『お前がいるから、お前だけいれば、それで十分だ』と。
ならば、と思ったのだ。
長次がそうであるならば、自分には長次がいれば良いのだ。
自分も、長次だけがいれば良いのだ。
長次が笑わぬのならば、自分がその分を笑おう。長次が相手にせぬならば、代わりに自分が相手になろう。
自分は長次の全てで、長次は自分の全てなのだ。
それなのに、どうして『もっと周りを見ろ』などと言うのか。どうして長次以外も大切に、失くさぬように振る舞わねばならないのか。
解らないのは、きっと私がバカな所為なのだろう。



々様にお贈りします(^^)v
出遅れましたが、『忍冬の散る頃に』20000hitおめでとうございます☆
このような中途半端に薄暗い噺しか書けぬ身ではありますが、
どうぞ仲良くしてやってください←
これからも々様の可愛らしい小平太を心待ちにしておりますっ(> <)vV


***
きゃあああ〜っ///
小説を読み終わった途端に心中で叫びました。
Mimiサマ素敵スギですっ!!

大切な人を馬鹿にされて自分の事のように怒り苦しむ小平太と
そんなこへを想いながらも大人目線で見つめる長次…

なんて美味しい設定…///
六ろはシリアスでも全然萌える大発見っ!!

ご馳走様でしたっ!!


因みに小鳥遊、グロも結構好きだったりしますです…。



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