頂物小説 | ナノ
頂き物小説


 そのときまで
「いつか私が壊れるその瞬間まで貴方の傍に居ても良いですか?」
小さく零れたその願いを叶えたいようとは思わなかった
そんなことは出来ないというのは解っているから
其れは貴方を縛るということだから
其れを私自身が望んでいないから
だからこそ浅ましいその願いは音になる事無く
自身の心の奥底へと封じ込めた
小さく息を吐き出し水面を覗けば
そこに映る自身の顔は泣いているようにも見えた
「・・・悲しいなんて、そんな事・・・無いのに」
小さく呟く声は少し震えており、それに苦笑する
水面から眼を逸らし、空を見上げて眼を閉じる
そうすることで全てが溶けていける気がして
溶けて消えてしまえればきっと楽なんだろう
白くて優しいその世界に溶けてしまえれば
「本当に溶けてなくなってしまえれば良いのに・・・」
小さく呟いたその瞬間、視界が傾いだ
慌てて体勢を立て直し、傍にあった木に体を預けた
急な目眩に溜息をつき、そのまま座り込む
「・・はは・・私が・・・このま、ま壊れる方・・が・・・早いかな?」
治まらない咳に歪んだ笑みを浮かべる
雪が降っていないとはいえ長時間外にいることが危険だとは理解していた
其れでも一人で居たかったからこんな場所にいた
夜の帳も降り、こんな場所に訪れる物好きなどいないから
「・・此の、まま・・・眠ったら・・・楽に・・なれるか、な・・・」
荒い呼吸を抑え、空を仰げば涙が零れた
意識が完全に闇に飲まれる前に誰かの呼ぶ声が聞こえた気がした
私を呼ぶ声に応えなければと思うのに声が出ない
其れが悔しくてなんとか名前を呼ぼうとしたけれど
闇に囚われたままの意識では呼ぶべき名前が出てこなかった
名前を呼びたいのにそう強く思った瞬間、意識が浮上した
薄らと目をあければ心配そうに覗き込む顔に困ったような笑みを返した
「・・伊作・・くん」
「・・・よかった・・・目を覚まして」
「・・・私?」
如何して・・・そう訪ねようとして体を起こそうとしたらそのまま布団へと戻された
急に起き上がったりしたら危険だよと、優しく窘められた
「文次郎がね、倒れている小平太を見つけてくれたんだよ」
「・・・もんじが?」
「呼んでこようか?」
「呼ばないで・・・文次郎と居ると私・・・」
我が侭ばかり言ってしまうから
想いばかりが溢れて今って止まらなくなるから
どんどん願いは膨らんで、それが自分でも抑えられなくなるのが怖い
「・・だから・・・駄目・・・」
「怖い?」
「全てを背負わせてしまいそうで・・・怖い」
何より、そんなことを考えてしまう自分が怖い
溢れる願いで全て潰れてしまいそうになる
「・・・だから・・・」
―怖いんだ―
そう呟き、俯くけばそっと髪を撫ぜらた
ゆっくりと髪を撫ぜ、呼びかけられた声に思わず顔を上げれば
そこに居たのは先ほどまで看病してくれていた伊作ではなく
「文次郎?」
「・・心配させるなよ」
「あの・・・ごめん・・なさい」
小さく零せば、くしゃりと髪を撫ぜられた
くすぐったくて瞳を閉じれば瞼に唇が落とされた
その手の仕草が優しくて先程まで感じていた不安が溶けていった
「文次郎・・・」
「嗚呼」
「・・・ありがとう・・・」
貴方がくれる優しさが胸に広がり温かくなる
ずっとくこうして傍にいて欲しいだなんては言えないけれど
其れでも今こうして傍にいてくれている
それだけで十分な気がした
こうして貴方が居てくれるだけで私は凄く幸せなんだ
だからお願いですもう暫く私の傍にいてください
私が眠るその時まで・・・





〜イラストに書かれている文章です〜
あの日出会うその時まで他人の温かさを知らなかった僕達は
愛しい人と触れ合う喜びを知り
近い内にに訪れるであろう永久の別れの苦しみを知った
僕達は如何してこんなに苦しい想いを強いられるんだろう?
ほろりと頬を伝う雫が僕達の心を跳ねさせた
こんなにも愛おしいと思える存在が傍に居るのに
其れなのにこんなにも辛く苦しい
こんな想いをする位ならばいっその事出会わなければ良かった
そんな風に思うこともあった
其れでも僕達は手を離すことが出来なかった
僕達に残された時間はあとどれ位あるのだろうか?
伝う雫がじわりと胸を締め付ける
それでも零さずにはいられなかった
その先に待つものを認めたくは無かっただけなのかもしれない
ただ今は此のまま静かに泣かせて欲しかった
絶望という名の欠片が繋ぐ未来を忘れる為にも
僕達に残された未来に少しでも希望が在れば良かったのに
そう零したのはどちらの唇か?
ただ僕達は互いを求めるように温度を分け合い、確かめ合った
耳を澄ませばゆっくりと一定のリズムを刻む鼓動に生を感じ静かに涙を零した


僕達は未だ共に生きていられる、今は其れだけで良い

(小さいサイズ版です)



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