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 忍冬の散る頃に
「うぅ…夜はやっぱり冷えるなぁ…」

ぱたぱたと夜着で廊下を歩く。
冷えた廊下の板に裸足で歩くのは避けて布団の中でぬくぬくとしていたかったが、どうしても尿意が治まらず、仕方が無くこうして秋の夜風にあたっている。
月明かりが綺麗な中、ふと中庭に人影を見つけた。

「ほぇ……伊作くん…?」

熱心に何やら土をいじっていた人影は、小さいながらもよく通る声に動きを止めて振り返る。
「…小松田さん?」
「やっぱり伊作くんだぁ!こんな時間に何してるの?」
見知った顔に小松田は中庭に出ようとするが、伊作が慌てて止める。
「今、そっちに行きますから待ってて下さい」
「うん」
軽い足取りで小松田の待つ縁側まで行くと、小松田がにこにこと座って待っていた。
「伊作くんも座る?」
「あ、はい」
「えへへ〜…私はちょっと起きちゃって…伊作くんは何してたの?」
「僕は、その…花が気になって…」
「はな?」
「はい。正確には葉なんですけど…スイカズラって知ってますか?」
聞いたことの無い花の名前に小松田は首を横に振る。
「忍ぶ冬、とも書く花で、この花は冬でも葉を落とさないんです。ただ…」
「ただ?」
「僕がさっき見てた一つだけ、元気が無くて…」
「そっかぁ…じゃあさ!」
ぽん、と良い案が浮かんだと言わんばかりに顔を輝かせて手を打つ。
「一緒にお世話しようよ!そして、花が咲くのを一緒に見よ?」
「…え?」
「あっ、でも花が咲く頃には伊作くん卒業しちゃうかなぁ…?」
「あの、」
「あ!でもでも、それなら花を理由に遊びに来れるよね!どうかなぁ!?」
きらきらと輝く笑顔でこちらを見つめる小松田さんに、ああこの人は本当に花と自分を心配してくれてるんだなぁ、と思う。
忍者にとって帰る場所があるというのは、どれだけ心強い事か。
いや、ただ何も考えないでの行動かもしれない。むしろ、そっちの方が可能性は高いだろう。
だけど、それに何度救われたか。
(やっぱり好きだなぁ…)
それでも、好きな人に自分ではかなわない相手が居ると分かっていても諦められないのは、他人から見れば不運な事かもしれないけど、小松田さんを好きになれた事は幸運だと思う。
「…だめ、かなぁ…?」
返事をしない自分に、否定する事を想像した小松田は、不安そうに伊作を覗き込む。
月明かりに瞳が揺れるのを間近に見て、伊作の理性が揺れる。
そこを何とか押さえて、笑みを向ける。
「小松田さんと一緒に見れるなら、毎日だって来ますよ」
「ほんと!?ありがとう、伊作くんっ!!」
「いえ…あ、それなら、これは二人だけの秘密ですね」
小指を小松田さんに差し出すと、きゅ、と指切りをした。

…小松田さんじゃない小指と。

「!?」
その指は、小松田さんの後ろから伸びてきていた。
「あ、利吉さんだぁ。こんばんはー」
「やぁ、秀。こんばんは。…伊作くんもついでにこんばんは」
「なっ、ななななな…!!」
小指を結んだまま人当たりの良い笑みを浮かべてこちらを見ているのは、伊作の天敵と言っても過言ではない、山田利吉。
「ここは客間の前だ、私が居たっておかしくはないだろう?」
にやり、と小松田に見えない角度で上手く威嚇する笑みを向けてくる。
「これじゃあ、二人だけの秘密にならないね」
未だ結んだままの小指を慌てて振りほどく。
「なんで!!利吉さんが居るんですか!!!!」
「だから言っただろう?ここは客間の前だって。夕方に学園に着いたから今夜一晩泊めてもらったのさ」
どうしてこうこの人は自分と小松田さんが良い雰囲気になると神出鬼没に現れるのだろう…。
「そんなの、勘だよ。だいたい客間の前で堂々と内緒話をしている君が悪い」
「なっ…!?」
「顔に出ている。図星だろう?」
小松田さんが利吉さん一筋で恋がかなわないというのに、忍としてもかなわないとなると、腹が立つ前にむなしくなってくる。
「????」
一人小松田さんだけが話についていけず、疑問符を頭の上に出していると、利吉さんが小松田さんを抱きしめた。
「秀には関係ないよ。…ああ、こんなに体を冷やして…今夜はこのまま私の部屋に泊まるといい。布団も暖まっているよ」
「わぁい、おじゃましまーす」
伊作くんまたね、と小松田さんは利吉さんに肩を抱かれたまま客間に消えていった。
月明かりの中、残された伊作は先ほどよりも元気を取り戻したように見えるスイカズラに視線を向ける。
この花が散る時までは、この純粋な気持ちを大切にしていこう。
かなわない恋かもしれないけど、小松田さんがこの花を手入れしてくれる時は自分の事を思い出してくれるかもしれない。
淡い期待かもしれないが、それでもそれは希望になる。
死と隣り合わせである忍者にとって…生きる、希望に。
「あぁ、そうだ」
閉じた筈の客間から利吉さんが顔を出す。
「スイカズラは私も好きな花だ。伊作くんにしては良い趣味をしているね。…その花言葉は、縁がないものだろうけど」
ふ、と嫌味な笑みを向けるが、すぐに裏の無い笑顔を浮かべた。
「まぁ秀以外の人を想うなら応援するよ。大事にすると良い」
そう言って、再度客間の襖は閉められた。
スイカズラの花言葉。
すぐには浮かんでこなかったが、さわ、と風に揺れたスイカズラが揺れるのを見て思い出す。
そうだ。
白と黄の花が対になって咲く様を見て、伊作はこの花に惹かれたのだ。

「僕は、諦めませんから!」

客間にいる、ライバルにだけ聞こえるように、だがしかしはっきりと告げると、伊作は自分の部屋へと足を向ける。

この花が散らない限り、自分は何も諦めない。
例えそれが困難な事であっても。

スイカズラの花言葉は――――……‥









忍冬の散る頃に。


[完]





******
お粗末様でした…!!
文才が無くて本当に読み辛いかと思いますが、楽しんで頂けたら幸いです…!!!!
こんなもので相互リンクのお礼になったかは分かりませんが、相互ありがとうございました!!
これからも宜しくお願いします!!!!!!!!


葛葉 拝。


***
きゃあああ!!!
憧れの葛葉サマと相互出来て幸せなのにその上こんな素敵な小説を頂いてしまいましたっvv
大好きな利コマ←伊のまさかの忍冬ネタでっす♪
文才がないだなんてとんでもないっ!!
いさっくんと小松田さんのほのぼのシーンに癒されて利吉さんの登場にドキドキしながら読み耽ってました。
改めて私はこの三角関係が好きなんだなぁ…と実感しながら。

そして畏れ多い事に当サイト名を題材にして下さったことっ!!
私、自分のサイト名『忍冬の散る頃に』に凄い愛着をもってるんですよ。
忍者の人生をそのまま映し出してる感じで。
なのでコレをネタに小説を書いて下さったことが凄く嬉しくてvv

利吉さんの「私も好きな花だ」というセリフにドキっとしました★

葛葉サマ
相互リンク&素敵な小説を有難うございましたっ!!



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