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 のらがじゃれあって〜続編〜
  
※此方の小説はぷぅこさんのサイト【そのひぐらし】で公開されている『のらがじゃれあって』の続編になります。
まずは本編をご覧になってから閲覧することをオススメします♪










日当たりの好い山道の脇で惰眠を貪っていた時のこと。
腹の辺りに突然鈍い痛みが走り、気持ちよく昼寝していたところを無理矢理叩き起こされた。何事かと目を見開けば私の腹回りへ頭を擦り付けジャレているコヘイタが居る。
「チョージ! 見て見て!」
その真っ白い毛並をくるくるさせながら少し後ろを鼻先で指し示すコヘイタ。言われて視線を向ければそこにはコヘイタの身体と同色の、変わった形の花があった。
「面白い形の花だよな! なあ、この花なんて花!?」
まぁるい瞳を爛々と輝かせて私に詰め寄ってくる。なんて花?と訊かれても私には分からないし答えられない。
この山にはつい先日、お前と二人で越してきたばかりじゃないか。私が知ってて当然のような聞き方をするな。
「なあなあ、なんて花!?」
ワンワンと質問攻めしてくるコヘイタに多少頭が痛くなる。興味を持つのはイイコトだが自分で調べるという選択肢が無いのかお前には。
「知らない」
にゃあ、と一言鳴き返せばコヘイタは束の間ぽかんとした顔を見せてから、途端にムスッとした表情へ変化してみせた。
「チョージってばひょっとしてまた面倒臭がってるな!? 教えてくれたっていーじゃんかケチー!」
何故そうなる。本当に知らないから正直に答えただけなのに。
私の黒い尻尾をバシバシと叩きながら文句を言うコヘイタに思わず手が出掛けた。頼むからやめてくれ、痛い。
そんな気は無かったのに相手をするのがだんだんと面倒臭くなってきた。無視して日向ぼっこの続きをしようか。ああそうだそれがいい、そうしてしまえ。
「あっ!? 寝に入るなよ!」
きゃんきゃん吠えて私の睡眠を妨害しようと躍起になっている。いい加減ウルサイのでその小柄な身体を腹の下で押し潰してやろうか思案し始めた頃、
「それは忍冬だ」
コヘイタの求める答えが前方から聞こえてきた。
丸まっていた首を起こして目をやると、茂みの中から綺麗な毛並みの狐が現れた。
「あ、センゾー!」
コヘイタが嬉々として名を呼ぶ。その隣からガサガサと音を立ててもう一匹、
「ったく、お前の声はうっせーんだよ。山全体に響いてんぞ。会話が丸聞こえだ」
大柄な狸のモンジローが姿を見せた。
「お前だって他人のコト言えるほど静かじゃないだろう」
「ふざけんな。コイツよりは静かだっつの」
「・・・」
「んだよ」
「誰かさん、目下が真っ黒で何処を向いてるのか相変わらず分かり辛いな。まあいつものことか」
「会ったそうそう何だ!? お前ケンカ売ってんのか!?」
「あいにく今日はお前と化かし合う気分ではない」
喧嘩するほど何とやら。顔を合わせて早々、眼前でいつも通りのくだらない言い合いを始める二匹。
狐のセンゾーと狸のモンジローはこれでもこの山の主なのである。私とコヘイタがこの山へ流れ着いた時、切れ長の瞳で明後日の方を眺めつつ思案するセンゾーと吟味するようにじろじろ眺めてきたモンジローの二匹の絵面は、今でも私の心内に印象深く残っていた。
「なあセンゾー、この花スイカズラっていうのか?」
わくわくしながら話を引き戻すコヘイタに、センゾーは薄く笑って頷いた。
「ああそうだ。舐めると甘い蜜が出るぞ」
「本当!?」
「舐めてみろ」
がぶり、言われるままに花へ喰らい付くコヘイタ。舐めろと言われて丸齧りに走るコイツは細かいことを気にしない性格の塊である。
本当だ!なんて嬉しそうに口を動かすチビ犬に私もつい顔が綻んだ。可愛いと思うのも仕方のないこと、惚れた弱みなのだから。
「俺達はよく見る花だけどだな。お前らが前まで住んでた処には忍冬咲いてなかったのか?」
首を傾げて質問してくるモンジローに、私達は視線を合わせてウマイ答えを探した。まあ言いあぐねても仕様が無い、ここは正直に答えるべきか。
「私達が前に住んでいたのは山じゃない」
「は?」
「私達、人に飼われてたんだ!」
山長二匹の瞳が真ん丸くなる。ここへ流れ着いた当初は「先の嵐で住み処を失くした」と適当な説明しかしていなかったので、事実を打ち明けるのはこれが初めてだ。相当意外だったのだろう。
「飼われてた!? お前ら、人間なんぞに関わってよく無事でいられたな!」
「あれは私達を玩具や食い物にしか見立てられない生き物だからな」
怪訝な表情で私達二匹を見詰めながら、センゾー達が驚きの声を上げる。山長二匹は私達の身を案じて溢したに違いないが、コヘイタにはこの発言が面白くなかったらしい。
「そんなことないぞ!? 長次はとっても優しかったもん! 昼寝の時はあったかくしてくれたし、美味しいゴハンもたくさんくれた!」
「じゃあなんで家を失くしたんだよ」
「捨てられたんじゃないのか?」
「そっ、それは…」
急にゴニョゴニョと言葉を濁すコヘイタ。まあ言い淀むのも分かる。お互いの飼い主達の仲が良過ぎて入る隙が無かったなんて、悲劇を通り越えてもはや笑い話だ。私だって口にするのは多少恥ずかしい。
「捨てられたというより、私達が勝手に飛び出したんだ」
助け舟のつもりでコヘイタの言葉を補足した。コヘイタは尻尾を振って再び私に擦り付いてくる。
「飛び出した? いったいなん、」
「野暮はやめておけモンジロー」
遠回しにはぐらかす言い方をしたからか、勘の良いセンゾーは気を遣ったらしくそれ以上詮索してこなかった。
「まあ、べつにいいけどよ…」
モンジローが座り目でぼやく。以前から思ってるんだがこの♂、目周りの黒模様に誤魔化されがちだがあまり目付きはよろしくない。その事実を面と向かって言うとまた面倒なことになるので言えないけれど。
「長次、今ごろ元気にしてるかなあ」
私に寄り掛からながらぽそりと呟いて耳を垂れるコヘイタ。昔の主人が懐かしいのだろう、思い出したら郷愁に駆られ始めたようだ。
「・・・」
何と声を掛けようか。
「その…なんだ…忍冬が気に入ったんならもっと取ってきてやるよ」
らしくない彼の様子に、モンジローが歯切れ悪く声を掛けた。モンジローなりの励ましだろう。
「ほんと!?」
楽天家な誰かさんは喜んで耳を突っ立てる。能天気さゆえ、ものの数秒で郷愁など忘れたようだ。さすが細かいことは気にしない性格。
「おや珍しい。本当にコヘイタには甘いな、このポンポコは」
「ポンポコって言うな!」
「だがまあたまには誰かの為に動くのも悪くないな。暇だから私も探してきてやろう。ちょうどこの間、トメサブローが忍冬の草原を見付けたと言っていたし」
センゾーの言う”トメサブロー”とは面倒見の良いミミズクのことだ。この山きっての情報屋で、モンジローとはいつも些細なことで喧嘩している。
「あいつの言うことなんか信じるなよ!」
案の定、センゾーの発言に機嫌を損ねたモンジローがぶりぶりと怒り出した。
「アテも無くその辺を探して歩くより余程効率が良いだろう。妙なことで片意地を張るな」
「張ってねえ! 俺はただ忍冬が咲いてる場所をあいつよりも知ってる!そんだけだ!」
「張ってるじゃないか」
呆れ顔で溜め息を吐きながら、センゾーは踵を返して歩き出した。センゾーも半ばモンジローの相手が面倒になったのだろう。おい待てだの何だの叫びながらモンジローもそれに続いて歩き出す。文句言いながらも二匹揃ってトメサブローの処へ向かう気だなアレは。
…何だか嵐のようだった。
昼寝を妨害されてすっかり目が冴えてしまった。遠ざかる二匹の後姿をぼんやり見詰めていると、背後でぷちりと何かをもぎ取る音が聞こえた。振り返ればコヘイタが残り僅かに咲いていた忍冬を銜え、私を見上げている。
「チョージも吸ってみろよ。甘いぞ」
私のすぐ前に忍冬を置いてニコニコしながら尻尾を振る。なんだか微笑ましくて少し低いところにあるその頭をベロリと舐めてやった。
「わあ!? なんだチョージ、毛繕いか? 私今日はまだそんなに汚れてないぞ」
くすぐったそうに笑うコヘイタへ構わずペロペロと舐め上げた。私が忍冬なわけじゃないのに、なんてぼやいたかと思えば次の瞬間、コヘイタは突然大声をあげる。何事かと視線で問えば再度目を輝かせてワンワンと続けた。
「せっかくだからイサクも呼んでこよう! きっとイサクも忍冬を気に入るだろうから!」
言うが早いか、私の横を通り過ぎて茂みの向こうへ消えるコヘイタ。天然なのは仕方ないが釣れなさときたら無い。なんだこれじゃあ私はフラれたみたいじゃないか。楽しくないな。
やるせなくなって三たび丸まった。”イサク”というのは最近出来たコヘイタの親友で、人当たりの好い温厚な兎のことだ。コヘイタに友人が増えるのは私も嬉しいが、近頃二匹の仲が良くて少し妬ける。
ふう、と溜め息を一つ吐けば先程コヘイタが置いた忍冬がふわりと浮いて落ちた。特にやることも無く、それを花弁の内側からペロリと一舐めしてみる。なるほど、思っていた以上に甘い。
『チョージ!』
一匹でぼんやりしていると不意に昔の主人の顔が思い浮かんだ。さっきその話題が出るまであまり思い出さない存在だったが、そういえば元気にしているだろうか。私をまるで人間の友のように扱ってくれたあの人。コヘイタを土砂から救出する為に、嵐のなか一緒にずぶ濡れの泥塗れになってくれた、あの人。
郷愁に駆られるなど自分らしくないとは思うものの、一度思い出したら気掛かりになってきた。思い返せばろくな礼もせずに、最後には引っ掻いて飛び出してきてしまった。今更だがあの人には随分悪いことをしたと思う。
今からでも何か恩を返せないだろうか。思案を重ねて瞳を瞬く。
「・・・」
目の前にあるのは、一輪の甘い蜜の花。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「おはよー長次」
あくびをしながら伸びを一つ。隣に居る同室者は少し前に目が覚めたようで、洗顔の道具を手に取っているところだった。
おはよう、と静かに返してくるその様子を見詰めながら、ぼんやりと今見た夢の内容を思い出す。
「なあ長次、私今日なんだか変わった夢を見たよ」
膝に肘を付いてそう溢せば、変わった夢?と言いたげに視線で先を促された。
「チョージとコヘイタが山で仲良く暮らしてる夢。狸のモンジローとか狐のセンゾーとかも出てくんの。笑っちゃうだろ」
ぷ、と小さく噴き出す長次に私も釣られて笑ってしまった。そうだよなあ、いくらなんでも可笑しいよな。
「なんだか懐かしいな。あいつら今頃どうしてんだろ?」
寝起きの櫛通りが悪い髪の毛へ手を突っ込んで後頭部を掻けば、何故か長次にワシャワシャと頭を撫でられた
「夢の通り元気にしている」
「…そうだよな!」
アイツらのことだから今頃しぶとく仲良く暮らしてるに違いない。何せ私達の飼い犬猫だったんだから。
長次が自分のついでに私の洗顔道具も差し出してきたので、起き上がってそれを受け取った。
「よおぉし! 今日も一日はりきってくぞ! いけいけどんどーん!」
朝からテンション高めに部屋の戸を開ければ、隣のは組からウルセエ!なんて声が飛び出してきた。でも気にしない。
というか、そんなことより気になることが一つ。
「…あれ?」
踏み出そうとした先――部屋の前の縁側に置かれていたそれ。

そこには、夢にまで見た甘い忍冬の花が一輪。



⇒END

ぷぅこさんから相互記念の小説を頂きましたぁぁ!!
『長こへと動物でほのぼの的な日常』なんて変に難しいリクをした結果がこれですよぉぉ!!
ラブレターで少し『【のらがじゃれあって】のお話が好きです!』って告白しまして内心は、実はこれの続編とか後日談とか見たいなぁ…でも、考えてないのをいきなりリクするのは迷惑かなぁ…って考えてたのですよ。
それなのにぷぅこさんってば私のテレパシーを見事キャッチして下さったぁぁぁ!!

幸せすぎて萌え悶えた…///
ぷぅこさん本当に有難うございましたぁぁ!!
これからも仲良くしてね♪



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