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作品


 万聖節の妖怪

神無月の最終日、自室で長次は南蛮から渡った一つの書を読んでいた。昨晩から読み始めたのだが、なかなか進まない。それもそのはず。

「長次ー。暇だ退屈だー、鍛錬がてら裏々々山まで紅葉狩りに行こう」

同室者が先程から構ってくれと寄りかかる。「本を読み終えたら」と伝えて納得はしてくれたが、部屋で適当に遊んで飽きたのか今度は長次に寄り添いながら再度催促する。同意で頭を撫でると少しの間だけだが満足する。それの繰り返しだ。

「一体何の本を読んでいるのだ?」

ふいに小平太が長次の肩越しから本を見る。だが書いてある文章は南蛮語で小平太には解読不可能だった。

「…サウィン」

「サウィン?」

「私も全て解読した訳ではないから詳しくは分からないが、古代ケルトのドルイド信仰の一つらしい。ケルト人という民族の一年の終日の事で、この夜は死者の霊が家族を訪ねてくると信じられていたが、同時に有害な悪魔から身を守るために自身も怪物の仮装をして悪魔の目を欺く風習があるらしい。それにちなんでグレゴリウス暦の10月31日の夜はカブに目と口のような穴をくりぬいて『ジャク・オー・ランタン』という提灯のような灯火を作ったり、怪物に化けた子供が近所の家を訪ねて『お菓子をくれないと悪戯するぞ』と唱えるらしい。お菓子がもらえなかった場合は報復の悪戯をしても良いそうだ」

本の説明をする時の長次はよく喋る。いや、心の中では私以上にお喋りな長次だ、と思いながら小平太は一つの言葉に興味を示した。

「仮装したらお菓子が貰えるのか?貰えなかったら悪戯をしても良いのか!?」

「あくまで南蛮の風習だ。サウィンを知らない者にいきなり頼んで貰えるとは思えないが」

長次が自分の意見を素直に言えば小平太は「そうだよなー、私もつい先程まで知らなかったもんなー」とブツブツ言いながら床に寝転んだ。

そういえば明日からは霜月か。この時期になると山は紅葉をし、枯葉も落ちる。
普通は子供しかしない遊びだが、そろそろ五年生の鉢屋三郎も朴の狐面をかぶり同級生や下級生をからかう時期だろう。その意味で「…朴の狐」と呟けば小平太はすぐに理解したのか「双忍の片割れ!」と言い残して足早に部屋を出た。

…余計な事を言ってしまった。

罪悪感を覚えて心の中で鉢屋に詫びながら、本を置き、箪笥から割烹着を取り出すと食堂へと向かった。



茜空が広がる。もうすぐ逢魔ヶ時の時刻だが同室者はまだ帰ってこない。
長次は忍たま長屋の縁側で提灯をぶらさげながら本を供に小平太を待っていると暫くして二匹の、いや、二人の朴の狐があらわれた。一人は縁側まで走ると「お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ!」と笑う。

「悪戯されてはかなわないな。お菓子をやるから手を洗ってきなさい」

小平太は狐面を外すと嬉々と井戸に行く。小平太に無理やり連れて来られた鉢屋は疲れた表情で『お菓子も悪戯もいいから早く帰りたい』オーラを放ちながら仕方なしにそのまま縁側に座る。そんな鉢屋のそばに腰を下ろし薄布で覆ったボーロを手渡した。

「小平太が世話になった。少しだがお礼だ、不破と食べてくれ」

そう言うと鉢屋の表情が少し和らいだ。疲れた時にはやはり甘味だろう、小平太の事はもういいからゆっくり休め。と伝えると鉢屋は礼を言って帰った。

すぐに小平太が戻ってきた。

「鉢屋はもう帰ったのか、久し振りに遊んで楽しかったのにまだお礼も言えてないのだが…」

「私が替わりに伝えておいた。それよりも菓子を食べるか?」

「食べる!長次の手作り菓子は絶品だものな!」

そういって縁側に吊るしておいた提灯を外すと二人で部屋に戻った。
初めて食べる南瓜味のボーロに異国の味を感じた。


⇒END


宗教行事はややこしい…。


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