RKRN小説/短編 | ナノ
作品


 落陽

※オリキャラ目線
長次→こへですが小平太いません。ほんのり死ネタ。



その男と出会ったのは単に不運な偶然だった。
何処に行くあてもない私はとりあえず摂津の国へと向かって放浪の旅をしていた。猿曳(さるひき)という仕事の相棒・小猿の七(なな)を連れて。


日が暮れたというのにこんな山奥まで登るべきではなかった。山の麓にある小さな町場の側にでも野宿するんだった。
今、私の目の前にはこの山を根拠地にしているのだろう六人の山賊が獲物を狙うような目付きで立っている。
私は腰に小刀を差してはいたが戦術は得意ではなかった。ましてや相手はやたら図体のデカイ六人組、敵うはずもない。
私の左肩に大人しくしがみ付いてたいた七は威嚇をしながら山賊を睨んでいる。所持金なんて相手が満足するような額を持っちゃいない。
身ぐるみ剥がして殺されるのだろうか。そう思った瞬間、私の目の端に見知らぬ男が映り、そいつはあっという間に刀を振り上げ、山賊を一人残さず倒した。

男は六人もの山賊を倒したにも関わらず全く息を乱さず私に視線を向けた。それは余りにも無表情で何を考えているのか微塵も分からない。両頬の傷も相まって恐ろしい。新手の盗賊なのだろうか?

だからといって助けてもらったことには変わりない。私が礼を言おうと口を開く前に、男は小さく口を開いた。

「…小平太」

「え?」

「………」

余りに小さい声で上手く聞きとれなかった。早くこの男から離れたい。

「助けていただき有難うございます。すみませんが私は先を急いでいるので…」

男の横をすり抜けようとすると、男は私の手首を掴んだ。

「…待て。この山は山賊の他にも凶暴な獣がいる。俺も一緒に行こう」

そう言うと男は私の手首を掴んだまま私の進む方向へと歩き出した。男の掴む手はさほどキツくもなく振り払えばすぐにでも離れそうだ。だが私は男の手の温もりに何故か安心していた。



******



「それで放浪の旅に?」

「…ああ」

小さな洞穴を見つけると近くの木の枝を拾って焚き火を作り、それを二人で囲む。近くの川から水を運び、男は持っていた干し飯を湯にもどし、私にもご馳走してくれた。

男の名は中在家長次という。15歳までを名は言えぬ何処かの学園に在籍していて卒業と共に日本各地を放浪しているそうだ。40歳をとうに過ぎているように見えたが意外にも19歳だと聞いて驚きを隠せなかった。因みに私は今年で数え15歳だ。

「お前は俺の親友に似ている。驚くほどそっくりだ。して名は何という?」

「小平(ちなる)。小さいに平たいと書いてちなる」

それから私は自分の知る限りの私自身の過去を話した。
城下町のすぐ傍の小さな村に生まれ育ったこと。付近の山には野猿がいて、物心付いた時から猿とは仲が良かったこと。猿は馬の守護神と考えられていて、武家での厩舎の悪魔払いや厄病除けの祈祷の際に重宝された。祝福芸を司るものとして私の両親を含む村の者は猿曳として色んな御所や高家へと稼ぎに行っていた。だが、城下町が戦に敗れて私の住む村も巻き込まれた。その日偶然、両親の仕事相棒の猿の子供である生まれたばかりの七を連れて山奥へと遊びに行った私は落陽の中、無残にも変わり果てた村を目の前にしてどうすれば良いのか分からず立ち竦んだ。大声で両親や親しい村の人の名前を呼ぶが、聞こえるのは自分の泣き叫ぶ声と遠くで聞こえるカラスの鳴き声だけ。この村で、私だけが生き残ってしまった。

相手は命の恩人ではあるが先程出会ったばかりの人間だ。
私は今まで誰にも明かさなかった過去を、何故だか中在家という男には素直に話せた。私以外には誰にも懐かなかった七が、中在家の膝で優しく背中を撫でられながら気持ち良さそうに眠っている。

「あの、中在家さん」

「…長次でいい。呼び捨てで」

「………」

「………」

「長次さん」

「…なんだ?」

「私は本当にあなたの言っていた親友と似ているんですか?」

「…ああ。生き返ったのかと錯覚するほどにそっくりだ」

「………」



******



太陽が眩しい。
自分はどれだけ寝ていたのだろうと思いながら重い瞼を擦って身体を起こした。その途端に自分の身体にかかっていたのだろう見知らぬ着物がずり落ちる。

「??」

黄緑色の生地に松の模様が七つ…はて、こんな着物なんて持っていただろうか?と寝惚けながら考えると背後から「…おはよう」と小さな声がした。

振り返ると其処には昨日、山賊から私を助けてくれた中在家が立っていた。

「おはよう。これ、どうも有難う」

「…そこの川で顔を洗ってくると良い」

中在家に借りた着物を返すと、代わりに顔を拭くための手拭いを渡された。まるで母親のようだと思いながら私は川へと向かった。

水面で顔を洗い、やっと目が覚める。改めて水面に浮かぶ自分の顔をまじまじと見てみる。
藍みがかかったボサボサの黒髪、太い眉に丸い瞳、相棒の七にさえツンツンと弄られる丸っこい頬。私以外にこんな顔をした人間がいるんだろうか?いや、中在家は私のことを「親友が生き返ったようだ」と言っていた。きっと、その人はもうこの世にいないのだろう。

中在家がいる洞穴へと一旦戻ると穴からは魚の焼ける良い匂いがただよっていた。

「…おかえり」

中在家は多くを言わず、私に串に刺さった焼き魚を渡した。本当に母親のようだ。二人無言で魚を食べる。中在家は水の入った竹筒を渡してくれた。

「私はこれから摂津の方へと行こうと思う。長次さんはどうする?」

「…俺は放浪の旅だから先の事は考えていない。出来ればもう少し小平と話がしたいんだが一緒に行ってはだめだろうか?」

中在家は私の顔を窺うように言う。顔は強面だが七が懐くほどだ。悪い人ではない。私は何年かぶりの笑顔で「行こう!」と誘った。

中在家は口の端で小さく笑ったが顔が引きつっている。両頬の古傷が邪魔して上手く笑えないのだろう。
私はそんな中在家の精一杯の笑顔に嬉しくなると、昨日とは逆に中在家の手首を掴んで歩き出した。途中で軽く手を振りほどかされて残念に思ったが、すぐに中在家の指が絡むように手を繋ぎ直してくれた。

中在家の手の温もりは数年ぶりに私の心を優しく温めてくれた。

⇒END


生前の七松小平太の女装偽名も小平(ちなる)だったので内心驚いてもう小平太にしか見えなくて出来ればそばにいて世話を焼きたい長次のお話。
オリキャラが女っぽい名前ですが小平太に瓜二つの男です。どうしても名前に小平太の漢字を使いたかっただけです。

ちな六年生の女装偽名

文次郎=文 (あや)
仙蔵 =仙 (せん)
長次 =長 (つかさ)
小平太=小平(ちなる)
伊作 =優伊(ゆい)
留三郎=留 (りゅう)
与四郎=与四(ともよ)


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