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作品


 平太と小平太

※アニ忍21期2話の後日談的ななにか。



そういえば同じ用具委員会所属のしんべヱと喜三太が言っていた気がする。「金吾が『七松先輩のようになりたい』って実技も委員会も頑張っている」って。

だからって、これはいくらなんでもやりすぎな気がする。だってほら、食満先輩が頭から湯気を出しながら怒りを露わにしている。こんな時に先輩に声を掛けるのは自殺行為だ。
一年ろ組の用具委員会である下坂部平太は学園の校庭でそんな事を考えながら震えていた。


「小平太ぁ!お前いつになったら学園中に塹壕を掘りまくる悪癖を直すんだぁ!?」

ビクッ。
留三郎が怒りをそのまま怒声にかえて小平太に怒鳴りつける。張本人の小平太は日常茶飯事のことでさして気にもせず、関係のない平太が留三郎の背後でビビっていた。

「おおっ、留三郎!お前も一緒に塹壕掘るか?」

「するか!俺たち用具委員はたった今、お前が無駄に掘った塹壕を埋め直さなきゃならない仕事が増えたんだよ!!」

「そうか。用具委員も大変だなぁ」

「お陰さまでな」

言いながらも留三郎は下級生が目を合わせられないほど恐い形相で小平太を睨んでいる。そんな表情に屈することなく、もしかしたら気付いてすらいないのかもしれない、小平太は普段の笑顔で普段の会話をしている。

最上級生ってすごい。

金吾が小平太に対する憧れとはまた違った感情を平太は小平太に抱いた。


「小平太だって今は委員会活動中なんだろ?」

「そうだ、だから塹壕を掘っているんじゃないか」

「他にもしなきゃいけないことがあるだろ。体育倉庫の備品の管理とか野外授業の下見は終わったのか?」

「………」

「………」

「細かいことは「細かくない!」

小平太の口癖を遮るように留三郎が叫ぶ。小平太は「塹壕掘りが終わったらやろうと思っていたのに…」と不貞腐れたように言うが仕方ないと渋々納得した。

「体育委員集合―!」と小平太が号令をかける。全員揃ったのを確認すると体育倉庫へ行くぞと告げていけどんで走り出した。それに付いて金吾も彼なりの猛スピードで小平太の背中を追って行く。
他の体育委員達は訳も分からず二人の後を追うが去り際、滝夜叉丸が留三郎の方へ向き「ありがとうございました、ご迷惑をおかけして申し訳ありません」と深く頭を下げる。
しんべヱも喜三太も作兵衛もそんな滝夜叉丸を見るのは初めてで自分の目を疑った。
留三郎はさして気にする様子もなく「早く行かないと小平太に置いてかれるぞ」と笑って声をかけた。



******



あれからどれだけ経っただろうか。
あんなに沢山あった塹壕をやっとの思いで全て埋め尽くし、気付けば空は夕焼けに染まっていた。くたくたになったしんべヱを喜三太に任せて二人を帰し、作兵衛は藤内が授業の復習で聞きたい事があるというので先に帰した。
残りは平太と留三郎。この二人で塹壕を埋め戻すのに使った用具を片付けていた。

用具倉庫から外に出ると真っ赤な夕焼けが空を覆っている。上級生はこの茜空を見つめると、みんながみんな遠くを睨むような鋭い眼つきになる。用具倉庫の鍵を閉め、空に目を向ける留三郎もいつにも増して鋭い視線で見つめていた。

みんなこの夕焼け空に何か嫌な思い出でもあるのかな?

平太は気になったが真相を訪ねる勇気もなく、留三郎の手をギュッと握り締める。留三郎はハッとして平太に視線を向けると先程の表情が嘘のように手を握り返しながら「一緒に長屋まで帰ろうな」と優しい口調で言ってくれた。

校庭をゆっくり歩くと背後から「留三郎―!」と呼ぶ声が聞こえた。振り返ると体育委員長の小平太が手を振りながら二人の側まで走り寄って来た。

「体育委員の活動も終わったのか?」

「ああ、とっくに終わって解散した。まだ体力があり余って暇だったから、裏々山までマラソンして来たんだ」

「そりゃまた…ご苦労なことで」

一般の人から見たらとてもそんなハードな運動をしたとは思えない笑顔で小平太が言うと長年の付き合いである留三郎は半分呆れたような口調で曖昧に返した。そんな小平太とは打って変わって留三郎の方は委員会をしただけとは思えないほどに心身共に疲れた表情をしている。平太は見上げるように留三郎を見ると、その向こうにいる小平太と目が合った。

「そいつ、留三郎とこの子か?」

「ああ、うちの委員会の一年ろ組の平太っていうんだ」

「おお!私と同じ組で同じような名前なんだな」

小平太は嬉しそうに真ん中の留三郎を柱扱いにして平太の方へ身を乗り出す。

「おい、あんまりビビらせんなよ。こいつ、お前と違って繊細なんだから」

「それって私が図太いってこと?」

「そこまで言ってねえよ。少なくとも細かいことは気にしない奴が繊細なわけないだろ」

「なるほど、留三郎は頭いいなー」

平太の頭上でなんともツッコミ難い話をする上級生。あまり会話に加わりたくはないが忘れ去られるのも寂しいので平太は留三郎の左手を再度ギュっと握った。
それに気付いて留三郎が「どうした?」と優しく平太を見降ろす。

「いえ、なんでもないです……」

「それにしても留三郎のとこの一年はみんな小さいなぁ。うちの一年はもっとでかくて体力もあるぞ」

「んな訳あるか!金吾と平太を比べても体格なんてそんな対差ねえだろ。うちの子だって学園中の色んな器物の修繕をしているしお前の掘った塹壕を埋め戻すのに体力使ってんだ。お前んとこのいけどんな後輩と違ってうちの子はみんな繊細なんだぞ!それに小平太お前だって一年の頃は俺よりも全然小さかったじゃないか!」

「う…、それは…」

「え、七松先輩って一年生の頃は小さかったんですか?」

平太は小平太の意外な過去にびっくりして留三郎に尋ねる。

「そうだぞ、名前の通り一年の頃は学年で一番低かったんだ。あの伊作や仙蔵が見降ろす程にな。たしか三年になってからようやく伸び出したんだっけか?」

「あの、僕も上級生になったら食満先輩や七松先輩に大きくて強い男になれるでしょうか?」

平太の普段見せない懸命な視線に留三郎は少し驚く。こんな小さな手をした子供でも大きな夢や希望を持っていることを当たり前だが知ってつい嬉しくなる。

「当たり前だろ!平太なら六年にもなりゃ今の小平太の身長を優位に越してるさ」

そう言うと留三郎は屈んで平太を肩に背負い、小平太の横に立った。当然だが留三郎の身長を借りて小平太よりも高くなる。

「あー、留三郎も平太もずるい!なんか私が小さいみたいじゃないか!」

「小平太は小さい頃に長次に背負ってもらってたんだから良いだろ!」

「むー…っ」


今まで上級生といったら食満先輩と善法寺先輩くらいしか碌に話したことがなかった。
他の先輩は熱血だったりクールな優等生だったりクソ力だったり表情が読めなかったりと一年ろ組にとっては近寄りがたい雰囲気を抱いていたが、不貞腐れた七松先輩は少し可愛くて過去も知って少し親近感と安心感を抱いた気がする。


「ぼく、大きくなったら食満先輩や七松先輩のように大きくて強くて優しい男になりたいです」

「なれるさ、平太なら」

意外にも小平太が返答した。留三郎は平太の下で嬉しそうに笑っている。

大きく強く優しい人間を目指すのは大切な人や家族を守る男にとっては当然のこと。それをこんな小さな手をした子供が決心するなんて、この子は将来大物になるかもしれない。
いつか刃の心を背負う日が来ようとも、願わくは人の心の痛みを理解できる人間であってほしい。
大切な後輩のために残されたわずかな時間、矛盾に満ちた世の中で自分には何ができるだろう?

留三郎と小平太は夕焼けに染まる学園を眺めながらゆっくり歩いていた。校庭は赤く染まり二つになった三人の長い影が伸びている。



******



数日後、しんべヱに連れられて平太が金吾と喜三太の部屋にやってきた。平太が自分たちの部屋に来るなんて珍しいと思う金吾に平太が相談があるんだと言うと意外な爆弾発言をした。


「ぼく、七松先輩のようになりたい」

「えっ…」


⇒END


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