RKRN小説/短編 | ナノ
作品


 ときには体で自然を感じたい

「小平太はいつも落ち着きがないよね」

保健室で級友の怪我の手当てをしながら伊作がため息を漏らす。

そうか?と特に気にする風でもなく小平太が言うと、今度は呆れたように言い返す。

「そうか?じゃないよ。全く何度怪我をしたら気が済むの?掠り傷だからって油断したらすぐに黴菌が入って化膿するんだよ。君は獣じゃなくて人間なんだから、舐めて治そうだなんて思っちゃ駄目なの。分かった?」

いつもの小言を言っても相手は小平太。
あの前世の一年は組じゃないけが、三歩歩くと忘れるような幸せな奴なのだ。
今だって僕の言葉を聞いてるのかいないのか不満気な表情で聞き流している。

(こんな時まで犬みたいなんだから…)

「小平太。身体を動かすのは良いことだよ。でも、たまには休養も取らなきゃ。次の休日はゆっくり僕の家でケーキでも食べようよ」

「どうせ食べるなら外で食べた方が美味しいぞ」


こいつ、人の話を全然聞いちゃいねえ!!

少し眉間にしわを寄せながら、自分の方が生まれ月では年上なんだから…と自分に言い聞かせ、極力優しい口調で訊ねる。

「なんで小平太はそんなに外で走り回りたいの?」

「それはもちろん自然にかえりたいから」

「…え。自然にかえりたい?どういうこと?」

小平太の意味不明な返答についオウム返しをしてしまった。
何を言いたいのかさっぱり分からない。

「毎日毎日、何時間も授業を受けてたら息が詰まっちゃうんだよ。あんな狭い空間に何十人も人間を閉じ込めて黙々と教科書を読んでさ。そりゃ勉強が大事なのは分かる。でも、それだけじゃいけない。それだけじゃ体が鈍って逆に疲れる。だから自然にかえりたくて、風を追いかけたくて私は走るんだ」

「そうなんだ…」

小平太も現代人の病気、ストレスを少なからず感じていたのか。
ストレスの解消法は個人で大きく異なる。
好きな物を食べたり、音楽を聴いたり、睡眠を取ったり、出掛けたり。
人それぞれ解消法は違うから、小平太の「自然にかえる」という、いわばリラクゼーションも納得がいく。

それで怪我をしたら元も子もないんだけど…。


「それじゃあ小平太。今度の休みは一緒に出掛けようか。どこでも小平太の行きたい所で良いから、たまには外でクレープでも食べようか」

「それなら隣町の外れの高原に行こう!あそこの空気は特に澄み切ってて好きなんだ」

先ほどまでの不満気な表情が嘘のように、本当に嬉しいのだろう笑顔で即答してくれた。
当日は暗雲にならないように、てるてる坊主でも吊るしておかなければ。


******



当日は僕の心配を他所に清々しい晴天を迎えた。
高原は緑が清々しく輝いていて、山の爽やかな風が襟元や袖から入り込み身を清めているようだ。

(気持ち良い…)

都会にいるとつい忘れてしまう大切な何かを思い出したような温かい気持ちになる。
このまま隣の小平太の手を握ろうとした瞬間、あろうことか彼はリードを外した犬のようにいけどんダッシュをしながら高原を転げ回った。


「………」

やっぱりあれは犬だ。

転げ回った小平太の髪の毛には無数の葉っぱがくっついていた。







⇒END


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