RKRN小説/短編 | ナノ
作品


 私を捨てる者に何を言えばいいのだろう

学び舎を巣立ったのはもう8年も前のこと。

学年が上がるにつれてどんどん非情になる試験を合格して。
就職した城ではどんなに酷(むご)い忍務もこなして。

今では自他共に認める一流の忍びとなった。

なったはずなのに――…。




目の前には今にも死に絶えそうな敵忍者が転がっている。
呼吸はひどく浅い、息をするのもやっとのようだ。

自分が殺したはずなのに…。

この敵忍者の生涯を想像する。
どのような家庭で育ったんだ?
親にはどんな愛情を受けてきた?
本気で笑いあえる喧嘩のできる仲間はいたのか?
恋人はいるのか?
それとも妻か?
子供はいるのか?

お前が死んで悲しむ人は、どれだけいるんだろうか?

心ではいくつもの質問を投げかける。
だが、実際には忍び頭巾からわずかに覗かせた瞳で見つめるだけで、当然答えは返ってこない。

いきなり敵忍者が閉じた瞳を目一杯開き、右手を天に仰いだ。

「組頭……命の恩…じん、期待、にそえず…すみません」

言葉は全部言い終わる前に右手が地面に落ちた。
敵忍者は息をひきとっていた。

両目は未だ見開いたままだ。

わたしはその目を右手で撫でながらそっと閉じた。
まだ温かい。
つい先程まで生命の血が流れていたのだと実感するほど温かい人のぬくもりだった。

だがそれも時間の問題で、もうすぐ冬の結晶のように冷たくなっていくのだろう。

昨日までは普通に生きていた。
今はもう動かない。
こいつの人生はもう終わった。





「小平太…」

今は亡き、相棒の名前を呟く。

時間が止まればいいのに。
小平太との思い出が沢山詰まった、あの学園生活の頃に。

そうすればこの敵忍者も死ぬことはなかった。

明日は、わたしが殺されるかもしれない…。


時間が止まらない限り、わたしの心の中に湧き上がる悲しみや不安をおしとどめる術はないのだろう…。






⇒END

長次は敵味方関係なく死に逝く者の傍で静かに看取ると思う。


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