RKRN小説/短編 | ナノ
作品


 棄てられた者。遺された忍。

※モブキャラ×久々知。
 伍年進級試験(13歳)のお話です。



「ふざけんなっ!」

いきなり部屋中に怒声が響く。
部屋には兵助と同室の生徒の2人きり。
その同室者は一通の文(ふみ)を握りしめたまま硬い床を殴っていた。

「どうして…なんでだよっ」

兵助はその光景を見つめることしか出来なかった。







泗学年最後の試験。
これは伍学年に進級できるかどうかという大切なテストだった。
学年で鉢屋と並ぶ優等生だった兵助でも何度も手こずったがなんとか合格できた。
だが、長年仲の良かった同室者が失格となってしまった。

同室者がどれだけ頑張っていたのか兵助は知っていた。
試験中、一緒に手こずったものの失敗なんて見受けられなかったし、合計点数は兵助よりも高かった。

それなのに若干点数の低かった兵助が合格して、点数の高かった同室者が失格してしまった。



何もかけてあげられる言葉がみつからない……。


ずっと床を殴り続けた同室者の手が止まり、兵助を見つめる。
その瞳は怒りも妬みも、ましてや怨みもこもってはいなかった。


「本当は分かってたんだ」

ふいに同室者の口が開いた。
視線は再び床に戻っていた。
ずっと握りしめていた文はしわくちゃで、所々破れていた。

「試験は大事だけど、大事なのは点数なんかじゃない。本当は点数なんて関係ない。どんな手段だろうと与えられた忍務を最後までやり遂げる忍者が世の中に望まれた者なんだって。俺は今までテストの点ばかりを気にしていた。目先の事しか考えていなかった。だから、1番大切なことを忘れてしまってたんだ。」

そう言うと同室者は諦めたような納得したような表情で兵助を再度見つめた。

「担任と学園長に呼びだされてさ、別れの言葉をもらったんだ。『お前は一流の忍者にはなれないが、何処に出しても恥ずかしくない人間に育てたから、自信をもって巣立て』って。一流の忍者を育てる学園の頂点がそんな言葉を吐くんだぜ。ふざけんな。そんな言葉もらったら…恨みたくても恨めねぇよ。」


学園長は最高に残酷で、最高に優しい。
生徒の夢を殺したくせに、自立への温かい言葉をくれた。
もう此処では生活できないのに、まるで本当の親のように最後まで接してくれた。
本当に親鳥のような人だった…。



「諦めたくないって必死になるのは、ぜんぜん格好悪いことじゃないと思う…」

ふいに兵助の口が開いた。
やっと考えぬいた精一杯の言葉だった。
同室者はどれほど忍者に憧れていたか、忍者の夢を追いかけていたか兵助は知っていた。
だからこそ、彼がどんなに辛くて悲しい気持ちなのか理解しているつもりだった。

「兵助は優しいのな」

同室者はそう言うと兵助を優しく抱きしめた。


「俺、ずっと黙ってたけど、お前のこと好きだったんだ」


「っ!!??」

「だからって別れの思い出を作るつもりなんてねぇよ」

すっと同室者が兵助から離れる。
兵助は微動も動けず、赤面したまま固まっていた。

「どうして兵助が合格して、俺が失格したのか少し分かった気がする。お前には俺には無いものを持っている。それを大事にしろよ」



その後、時間がどのようにして過ぎたのか、混乱した兵助の記憶には残っていなかった。







――――数日後。


正門の前に2人の影が立っていた。
兵助と同室者だった。
兵助以外に見送りの影はない。

兵助としては大事な仲間の旅立ちに誰も姿を見せないなんて薄情者と思ったが、同室者はそんなこと特に気にしていない様子だった。


「結局親の家業を継ぐことになったんだ」

「そうか」

「家業の跡取りをしながら学園への恩返しに副業で情報収集しようかと思ってる。いつかは穴牛になれれば良いんだけどな」

「お前ならなれるよ。俺が忍者になったら、その時はよろしく頼むよ」

「まかせとけ」



「怪我するなよ。絶対に一流の忍者になれよ」

「うん」

「じゃあな」

「またね」






彼は背を向けて歩き出した。
一度も学園を、兵助を見返すことはなかった。
兵助は彼が見えなくなるまでずっと見送った。






「雷蔵だけでも見送りに行けば良かったのに」

「2人の邪魔なんて出来ないよ」

「最後まで気付かなかったのは当の本人だけか」

「新学期から俺と兵助が同室になるかも」


正門から少し離れた木の上で竹谷・不破・鉢屋・尾浜が会話を交わしながら、元学友の去った道を眺めていた。
明日は泗年最後の終業式。


新学期から伍年生として新しい生活が始まる。
きっと、変わらず笑ったり泣いたり怒ったりして大切な時間を過ごすだろう。


棄てられた仲間の想いを胸に、遺された仲間と共に――。



⇒END

世の中努力しても報われないことが沢山ある。
でも成功した人は必ず努力している。

公式で頭悪いって言われてる小平太が六年まで進級できたのも、課題の点数云々じゃない、忍者として何か大切なものを持ってたから。とか妄想したら出来たお話。
小平太から妄想した話なのにこへどころか六年生出てない…あれ??


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