RKRN小説/短編 | ナノ
作品


 年上のペット

「もうっなんなんだよ!あの人はっ!!」

伍年長屋に竹谷の怒声が響いた。


「ちょっと聞いてくれよ。今日もあの人、園庭で俺に体当たりしたんだぜ!後輩ならまだしも先輩に跳び付かれたら転倒するにきまってるのになんで力任せにくるんだっての!!お陰で持ってた虫カゴが壊れて大惨事になるとこだったんだ!!」

それは災難だったねぇと雷蔵は困ったように八左ヱ門を慰める。
隣でつまらなそうに三郎が欠伸をした。



ここ二週間くらい前から毎日そうだ。
八左ヱ門は六年生の七松小平太から被害を受けている。
先程のように体当たりの如く抱きつかれるのは毎日のことで日に日に擦り傷が増えた。
食堂で八左ヱ門が一人で定食を食べてる時は遠慮なしに隣に座って延々と喋り続けて食事の時間も無くなるし。
伍・六年生の混合実習の時は一方的に八左ヱ門と組むと言い出してとてもじゃないが拒否なんて出来なかった。
その結果、細かいことは気にしない先輩のお陰で惨敗はなかったものの二人とも身体中が泥と傷だらけで医務室のお世話になった。


いわずもがな小平太は八左ヱ門の天敵だった。



「それにしてもなんで七松先輩は八左ヱ門にばかり構うんだろうね」

雷蔵が不思議そうに言う。
兵助も勘右衛門も気になるようで何か気に障ることでもしたんじゃないのか?と八左ヱ門をからかった。

「冗談じゃない!あの人を興味本位でからかったらどうなるか想像つくだろ!?命がいくつあっても足りない。俺はそんなチャレンジャーじゃないからな!!」

八左ヱ門は速攻否定した。
本当に心当たりがないらしい。

するとさっきまでつまらなそうに黙っていた三郎が問題発言した。

「八左ヱ門。お前、ついに七松先輩まで生物委員の管轄にしたのか?」

それなら犬小屋がいるなぁと言う三郎に、雷蔵と兵助と勘右衛門が盛大に笑う。

「確かに!!七松先輩って犬みたいだよな。『いけいけどんどん』は口癖っていうよりも鳴き声みたいだし、泥だらけで塹壕掘りとか花咲か爺さんの犬みたいだし。大型犬かな?柴犬かな??」

「大型犬じゃない?そういえば廊下で八左ヱ門を発見する時の七松先輩って本当に嬉しそうな笑顔で体当たりするからなぁ。飼い主を見つけて喜ぶペットのようだ。犬だったら絶対、尻尾を振ってるレベルだぜ」

悪だくみをする時の三郎と比べたらあの笑顔は可愛いぞ。と笑いながら兵助と勘右衛門がからかう。

「冗談じゃない!!お前ら何考えてんだっ!?そんな怖いこと言うのやめて!!いくら生物委員会でも七松先輩の世話は出来ないっ!!なんか…色んな意味で生物委員の予算が致命的になくなりそう!!てか委員の命が危ない!!あの人まぢ怖いっ!!」

八左ヱ門が余りの恐怖に壊れた。

あんなに責任感が強くて生き物の飼育が大好きで一部の久之壱に『タケメン』と呼ばれるこの男が全否定した。

というか毒虫はよくて七松先輩はダメなのか??
自分はどっちも嫌だけど…。
雷蔵、三郎、兵助、勘右衛門は揃って心の中で思った。





*****





あの後、雷蔵が図書委員会の仕事があるからと部屋を出て、皆の他愛無い世間話もお開きになった。

八左ヱ門はふと飼育小屋の生き物が気になって外に出てみた。


生物委員で飼育している生き物の殆どは毒を持った昆虫や爬虫類だ。
でも決してそれだけでなく哺乳類も飼育している。

八左ヱ門は生命全てが好きだったが中でも哺乳類が好きだ。
サバイバルでどうしても食糧を得ないといけない時、獣肉よりもカブト虫等の幼虫肉を選ぶ。

「哺乳類はいけなくて虫はいいのか?」と聞かれたことがあった。

その答えは自分でもよく分からない。

空腹を満たす為には虫ならば何匹も殺さなくてはいけない。
獣肉の方が少しの殺生で満腹になるのに、どうしてか自分はわからなかった。



狼小屋に行ってみると小屋の前に濃藍色の髪が見えた。
誰だか考えなくても分かる。
先程、長屋で話題になっていた張本人、七松先輩だ。

一瞬、物陰に隠れようか思案するといち早く八左ヱ門に気付いた小屋の中の狼達が嬉しそうに吠える。
それに気付いて七松が振り返ると嬉しそうに手招いた。

目が合った以上、無視はできないので引きつった笑顔で七松先輩の隣に行く。


「竹谷は委員会の仕事か?エライなぁ」

八左ヱ門が隣に来るのを確認すると七松は視線を小屋に戻した。

「七松先輩はどうしたのですが?飼育小屋に来るなんて珍しい。何か用でも…」

「私が用もなく、飼育小屋に来たらいけないか?」と七松先輩が言うので「そういうつもりじゃないんです」と素直に謝った。

「冗談だよ。好きなんだ、動物が」

そう言いながら七松先輩は両手でフェンスを握ったまま中の狼を見つめている。
そんなことをしたら狼の鋭い牙に噛まれて大怪我をしてもおかしくないのに、狼は敵視するどころか気にもせず、なかには七松の手を舐めるやつもいた。

「犬は良いな。頭が良くて凛々しくて、愛情を込めて接したらちゃんと答えてくれる。温かいし体中で気持ちを伝えてくれるし、悲しい時には頬を舐めて慰めてくれる」

そう言う七松先輩は何故か寂しそうだった。
あの暴君でも、こんな表情をするのか…。


気付いたら八左ヱ門は七松の頭を撫でていた。
吃驚した顔で七松が見つめるが、八左ヱ門も無意識ですぐに謝り手を離した。



気まずい空気が流れる。


と、粋なり七松が盛大に笑った。
年上の頭を撫でるなんて気に障ることをしてしまい、殺されるかと思い強く目を瞑った。
だが何の衝撃もなく、代わりに予想外の言葉が発せられた。

「竹谷は本当に優しいのな」

「…え?」

「こいつらが教えてくれた。これだけ猛獣に慕われるなんて、竹谷、お前本当に凄いな」


はい…?

ちょっと待て、七松先輩は今何とおっしゃった…?

狼が"教えてくれた"??

いやいやいや、流石にそれはないだろ。
もしかして、もしかしなくても七松先輩ってば犬属性だったりするのだろうか?

「あの…七松先輩」

「なんだ?」


恐る恐る聞いてみた。
どうして狼の言葉が分かるのか、狼が自分の事を何と言ったのか。

そしたら逆に不思議そうな視線を寄こされた。

「竹谷。お前が一番、狼の気持ちを分かってるだろ。私なんかよりも」

動物は敏感だから、飼い主が愛情を込めて接したら必ずそれに答えてくれる。
七松先輩はそう呟きながらなんの戸惑いもなく狼小屋に入って行った。


この小屋は危ないから必ず施錠をしていた。
一瞬七松先輩がバカ力で錠を壊したのかと思ったが、錠には鍵がささったまま扉の金具にぶら下がっていた。
ふと懐を探ると隠しポケットに入れていたはずの鍵がない。

さすが六年生…と思いながら八左ヱ門も小屋に入った。


相変わらず小屋の中の狼達は警戒していない。
七松先輩がいても特に気にしていない。
中には頭を撫でてもらおうと力を入れてすり寄る奴や、前足を先輩の両肩に乗せて匂いを確かめて舐める奴や、膝にのりたいのだろうか大きな図体を無理やり押し付けて先輩に甘える奴もいた。

こうして見ると人間と犬、というよりも犬の兄弟同士のじゃれあいみたいだなと八左ヱ門は思った。
ふと、先程のように七松先輩の頭を撫でてみる。
いつも狼達にしてやるように少し力強い腕力で。

七松先輩は一瞬驚いた顔をしたがすぐ笑顔になり言った。


「竹谷の手は温かくて本当に優しいな!」


その笑顔は飼い主に褒められた時の犬みたいに幸せそうで、八左ヱ門は思わず顔を赤らめた。



…この人、本当は可愛いかもしれない。





後日、八左ヱ門が衝撃の告白をして、伍年長屋に仲間の悲鳴が響いた。



⇒END

忍ミュ三弾初演の林小平太が可愛かったのでつい…///
留三郎に「お手」とか「ハウス」とか「ちん○ん」とか言われて思わず犬化して従っちゃう小平太の可愛さまぢ半端無い…。
従順なペットは飼い主が危険な目にあったら身体を張って守るんです。
だから忍ミュの小平太は痛い思いをしてでも竹谷を庇ったんです。

のまさん妄想しすぎですっ痛いですっ←


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