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名前を呼んで
思えばそれは何気ない不満だったのかもしれない。
「小平太」
「んー?」
「…………」
「どうしたんだ?食満」
「それだよ、それ」
「えっ?粋なりなんだよ」
「お前さ、他の奴らは名前や渾名で呼ぶじゃねえか。何で俺だけ苗字なわけ?」
「……厚着先生も苗字で呼んでるけど?」
「それは教師だからだろ。文次郎や委員会の後輩達には下の名前で呼んでるじゃねえか」
「そう言われればそうだけど…結局食満は何を言いたいんだ?」
「え…っ」
不意打ちのように響いた。
そうだ、俺は何が言いたいのだろう。
小平太がいつものメンバー(文次郎や立花、中在家に伊作なんかだ)を呼ぶ時、何のためらいも無しに名前で言う。
(もんじ 仙ちゃん ちょーじ いさっくん――)
それなのに俺に対しては、六年経った今でも苗字で呼ばれている。
壱年時なんか真顔で「しょくまん」と言われた頃よりはマシだが、それでも何か物足りない。
そんな見えない大きな壁に、俺は正直戸惑っているのかもしれない。
「あ〜…だからなその、他のいつものメンバーは名前で呼んでるじゃん。それって周りから見たら凄い仲良さげに見えるわけよ。なのに俺だけ苗字呼びだったらさ…なんつーか見えない壁とか距離とか感じるというか…なぁ」
「おぉー!なんか食満の言いたい事が分かったぞ」
「本当か!?」
「つまりは、皆みたいに名前で呼んで欲しいんだろ?」
「そう」
「でもなぁ、留三郎って呼ぶのは長いしな」
そう言ってから、小平太はうんうん練っていた。
きっと俺の渾名を考えているのだろう。
そう言えば文次郎も立花も伊作の渾名も全部小平太が考えたものだった。
長いからと省略して、いつの間にか浸透していった渾名だ。
さて、俺にはどんな渾名をくれるのか内心ドキドキワクワクしながら見つめていたら、閃いたのか満面笑顔の瞳と目が合った。
「そうだっ!『けまとめ』が良いなっ!」
「……はぁ!??」
「うん、けまとめ!なんか言いやすいし響きも良いし」
「こ…小平太……?」
「苗字と名前を一緒にした渾名、格好良いぞ、気に入ったか?」
そんな小平太にドキドキしながらも、大切な事を忘れていた事に今更気付いた。
文次郎も立花も伊作も渾名が浸透されるまでの数週間、小平太に呼ばれる度に皆にからかわれていたのだ。
特に文次郎のからかわれ具合と言ったら凄かった。
慣れればそう呼ばれるのが当たり前で、皆もすぐに飽きたのだが。
なぁ?と純粋笑顔で聞いてくる小平太に否とは言えず、つい頷いてしまった。
それを見た小平太はますます嬉しそうに俺の左手を両手で握ってぶんぶん振っている。
(可愛い…///)
もしかしたら小平太は俺を渾名で呼ぶ度にこの笑顔を見せてくれるかもしれない。
そう思ったら周りにからかわれる位の試練は良いか…と本気で思えた。
この笑顔を手に入れられる為ならば……。
後日、伊作と食堂に行くとい組とろ組が仲良さ気に昼食を食べていた。
ふと俺に気付いた小平太が満面の笑みで手を振り言う。
「けまとめーっ!此処空いてるぞっ」
「「「「ぶはっ!!!」」」」
食堂中の生徒が肩を震わせていた。
長次も、隣にいる伊作さえも。
立花に至っては盛大に笑い(こいつの笑みは変に上品があって恐い)早速俺をからかい出す。
「小平太、また素敵な渾名を付けたものだな」
意味あり気な笑顔をたえて仙蔵が言う。
「だろ?長い名前だからって一生懸命考えたんだ。格好良いだろ??」
「小平太は留が好きなんだね」
「うんっ、けまとめも大事な友達だからな」
伊作の変な質問にも素直に答える小平太が可愛い。
今までの見えない大きな壁が嘘のように感じ、純粋笑顔で俺の渾名を自慢する小平太を見つめていたら、不意に殺気染みた視線を感じた。
その視線を辿る先にいたのは、あの気に食わない潮江文次郎。
こいつは俺が小平太に好意を持っている事に気付いたらしい。
俺の渾名をからかうつもりもないらしい。瞳が笑っていなかった。
面白い。
九年の闇の偲び恋、そろそろ埋めてやろうじゃねえか……。
⇒END
寝起きで閃いて一気に書いた小話です。
六年生の渾名って萌え悶えるよね〜みたいな独り妄想で。
小平太は渾名命名常習犯希望。
そしていつの間にか皆に浸透していったら良いな〜という妄想。
仙蔵と伊作は「仕方ないな〜」と思いながら許しそう。
長次は「小平太の好きなように呼べば良い」みたいな事を言ってそう。
文次郎に至っては「お前、変な渾名付けんじゃねえよっ!!」なんて最初は怒鳴るけど(仙蔵にからかわれる為に)心の中ではデレてそう。
そして食満に今まで渾名が無かった理由はやっぱり、9年間の闇と現原作とアニメで小平太と食満が殆ど絡んでなかったからだと。
独り妄想、万歳(^O^)/