「なまえってさ、好きな人いないの?」 目の前でぢゅ、と紙パックのジュースを飲んでいた友人が不意に真剣な眼差しで私に問うた。 いないよ、そんな人。と素直に返せばなんだ、つまんないと言って雑誌に視線を写した。 どうしたのか、とこの女の読む雑誌を盗み見してみれば、相性占いなるものがそこには書かれていた。 ああ、私に好きな人がいたら、その人との相性を占おうと思ったのか。 一人ふんふんとうなづいていれば、不意に肩を叩かれた。 肩を跳ねさせて振り向けばちょっといいか?と小首をかしげている黒羽くん。 友達にごめんね、と一言断って黒羽くんの方に向く。 黒羽くんは「あそこ、」と教室の入口のほうを指差した。 何事かと見てみれば入口のは女の子、女の子、女の子と女の子がキャアキャアと甲高い黄色い声をあげていた。 「こーちゃん?」 「おう、用事らしいぜ?」 「そっか、ありがとう黒羽くん」 「おー!つか、バネって呼べよ」 「うん、わかった!」 にかっと笑顔を浮かべて片手をあげるバネくんに軽く手を振り返して、後ろの方の入口から廊下に出る。 そういえば、さっき樹っちゃんちょっと怒ってるっぽかったなぁ。 こーちゃん!と名前を呼べば、女の子の渦の中からこーちゃんがちょっとごめんね、と言って出てきた。 周りの女の子の視線が痛い、気がする。 そりゃそうか、こーちゃんモテるもんね。なんて考えながらどうしたの、と聞けば少し申し訳なさそうな顔をして数学の教科書を貸してくれないか、と言った。 私は快く了承して、机の中から教科書を取り出してこーちゃんに差し出す。 「ありがとう、なまえ」 「ううん、いいよ」 「樹っちゃんに怒られちゃった」 「そうなの?」 「また忘れたのねって。俺はかさないのねって言われちゃって」 「ああ、だから私に」 「うん、ごめんね」 「いいよ、でも気をつけなよ」 「うん、本当ごめん。ありがとう」 それから一言二言交わして、じゃあねと私に背を向けて歩き出すこーちゃんの後ろ姿をぼんやりと眺めていた。 私もなかに戻ろう、と踵を返したとき、視界に入り込んだ長身。 色鮮やかな髪色が、揺れる。 「…天根くん?」 気づけば私は、声をかけていた。 同じ場所から見ている (あれ、今心臓が、) ------------- 120923 ← top |