「あ、」 威圧感のある長身、掘り深い整った顔、有無も言わぬような無表情。 そんな彼の姿を見たのは1年前の夏の日。 私は丁度帰宅途中で、カバンの中に入れていたサンダルに履き替えて砂浜をざくざくと歩いていた。 そんな時、前からテニス部の集団が走ってきたのだ。 そうか、そういえば今日は月曜日だったんだ、と一人頷きながら前から来る彼らと目を合わせないように顔を俯かせれば足元にキラリとヒカル貝殻を見つけた。 形も大きさもよく、綺麗だったから彼らが通り過ぎたあとも暫くそれを眺めていた。 彼らが通り過ぎるときには、荒い息遣いと小さな笑い声が聞こえた。 多分、あの笑い声は、こーちゃんのものだろう。 なんて、ぼんやりと考えながら砂浜にお尻をつけて貝殻をひっくり返したりして、じっと見つめる。 これ、キーホルダーにしようかな、なんて考えていると突然肩に手を置かれ焦った私はてから貝殻を落としてしまった。 幸い、割れたり傷がついたりはしていなかった。 一体誰か、と眉間に皺を寄せて振り返れば千葉のロミオ、佐伯虎次郎ことこーちゃんと樹希彦こと、樹っちゃんがいつもの優しげな笑みを浮かべて何してるのね、なまえ?と私の名前を呼んでいた。 これ、見てたんだよ。と砂を払った貝殻をこーちゃんの手に乗せればこーちゃんは、キョトンとした顔の後、薄く笑った。 「綺麗だね、これ。」「うん、見つけたの。」「キーホルダーにしたらいいのね」「ふふ、でしょう?」 なんて、ふわり、ふわりとまったりした会話を繰り広げていると後ろからサエー!という大きな声が聞こえた。 こーちゃんの肩越しにそちらを見ると、黒羽くんや一年の、葵くん?がこーちゃんに向かって手を振っていた。 それを見て、私に貝殻を返して立ち上がるこーちゃん。 つられたように私も立ち上がり、スカートについた砂を払う。 「招集?」 「みたいなのね」 「そっか」 「俺、行くけど…もうちょっと待ってて」 「なんで?」 「送るよ」 「いいよ、そんな」 「ダメ、危ないだろ」 「大丈夫だよ」 「女の子を、一人で帰すわけにはいかないのね」 「…わかった」 「ん、いい子」 いいこ、と言って私の頭を優しく撫でるこーちゃんと樹っちゃん。 こーちゃんと樹っちゃんに撫でられるの、なんか好きだな。と思ったことを呟けば二人は綺麗に笑って、俺もなまえの頭撫でるの、好き。と言った。 じゃあ待ってるね。うん、早く終わらせるのね。ゆっくりでいいよ。ダメだよ。 そんな会話をしながらゆっくりと私から遠ざかる二人に行ってらっしゃいと声を掛けて見届け、海に向き直る。 サンダルの中に砂が入る。けど、それが苦には感じられない。 小さい頃から慣れ親しんだこの海。たくさんの思い出が詰まった、海。 海を眺めながら、ぼんやりと、手で貝殻を弄っていた。 数分して再び肩に手が置かれ、振り返ると今度は私の知らない、二人の幼馴染がいっぱいいた。 これが、ダビデと呼ばれる彼とのファーストコンタクトだった。 心臓が浮ついている (どうしよう、うまく息ができない) -------------------------- 新連載開始してしまいました…まだ終わってないのがたくさんある、のに…! 120724 120804 微修正 ← top |