すきだよ

やわらかく笑って彼はわたしにそう言った。うそだ、そんなはず、ない。ひっく、と嗚咽を漏らして目から溢れ落ちる涙を一生懸命に拭って譫言のようにそう言い続けていれば慎吾さんは、今度は困ったような顔をしてわたしをやさしく抱きしめる。ちっちゃな子供のように泣きじゃくればぽんぽんと一定のリズムで背中を叩きながら嘘じゃなよ、本当だよ。とわたしに言う。わたしだって本当は、うそじゃないってことを知っている。けど、こうやってうそだと言って泣きじゃくれば慎吾さんはわたしを抱きしめてくれるから、だからわたしは今日もこうして泣き続ける。わたしは汚い女だと思う。だって毎回こうして慎吾さんを困らせているから。ごめんね、ごめんなさい。心がずきずきと痛む。ごめんなさい、ごめんなさい。いくら謝っても心は痛くた痛くて、余計に涙が溢れてくる。その内に口からうそだ、じゃなくていたい、って漏れちゃいそうで少し怖い。でもそれでもいいかもしれない。もうこうやって慎吾さんを困らせるのは、やめよう。


いたい、いたいよ。ごめんなさい

遂に言ってしまった。これから慎吾さんは私から離れていって、もっとすてきなかわいい女の子と付き合って、それで結婚して。慎吾さんに似たかわいい子供ができて、幸せに暮らすんだろうか。そうであろうとなかろうと、私はこれから慎吾さんに関わることはなくなるんだと思う。すごくかなしい。とてもかなしい。ああまだ心がいたい。でもさっきとはちょっと違った痛みだ。いたい、いたいよう。ごめんなさい、ごめんね。目元で涙を拭っていた手を心臓の上、胸に当てて服をぎゅっと掴んで縮こまっていたいいたいと言えば慎吾さんは、驚いた顔をしてわたしの顔を覗き込んで背中をさすって大丈夫か、どこが痛いんだって聞いてくる。本当に、慎吾さんは馬鹿だなぁ。それでいてお人好しで、優しくて、大好き。わがままなわたしなんてほっといていいのに。どうしてわたしに構うんだろう。それでもうれしいんだけど、ごめんね慎吾さん。慎吾さん、慎吾さん。


ごめん、ごめんね慎吾さん。ごめんなさい

そう、慎吾さんに言えば慎吾さんはびっくりした顔をして、それから悲しそうな、それでいて苦しそうな顔をしてわたしを力強く抱きしめた。ごめんなさい、ごめんなさい。いつも困らせてごめんなさい。慎吾さん、慎吾さん。ぼろぼろと瞳から零れ落ちる涙が慎吾さんの肩を濡らしていく。グレーのTシャツの色が、そこだけ濃くなってるんだろうな。ごめんなさい。そんなことを考えながらずっとずっと泣く。その内にもう言葉がうまく言えなくなって、口から出るのはあ、とかう、とかわけわかんないことばっかりで、もどかしくてそれでまたいっぱいいっぱい涙が溢れてくる。慎吾さん、ごめんなさい。本当は知ってるんだ。でも嘘ついたの。ごめんなさい、わがままでごめんね。慎吾さん。ねぇ、慎吾さん。


もういいよ。怒ってないから、泣かないで。

なんで怒らないの、どうして離れていかないの。なんでわたしは喜んでるの。どうして、どうしてと言いながら慎吾さんの顔を見つめる。慎吾さんは何故か幸せそうに笑ってた。なんで怒らないの、そう聞いたら慎吾さんは「俺が離れると思って嘘ついてたんだろう」と言う。なんでわかったの、なんで離れないのそう聞くと今度は「俺はお前のことならわかるんだよ。離れないのは俺がお前を好きだからだよ。」と言う。じゃあなんで慎吾さんは泣いてるの。そう聞くと、慎吾さんは今までで一番嬉しそうな顔をして私に言った。


しあわせだから

やさしい腕で捉えて


タイトルは茫洋様より
おおきく振りかぶって/島崎慎吾
121207
 

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