視界の端にチラチラと入ってくる黒い、長い髪の毛が鬱陶しい。 でもそれは私のものではなくて。 じゃあ誰のものか、と聞かれたら私はこう答える。
"私の嫌いな、意地の悪い先輩のものです。"
「ねぇ、なまえってなんで俺の方見ないの?」 「極力視界に入れたくないんですよ」 「何それ、面白くない」 「私も貴方を視界に入れても面白くないですから」 「我侭だなぁ、なまえは」 「木更津先輩も大概ですよね」 「確かに」
クスクスクス、と。不気味な笑い声を発して笑う木更津先輩に不快感が募り眉間にしわを寄せる。 変な顔、と言って私の眉間に指を置きぐりぐりと皺を伸ばしてくる。 それがまた鬱陶しくて、パシンと払えば木更津先輩はむっとした顔になった。 私だって、そんな顔したいくらいですよ。
「何、機嫌悪いなぁ」 「先輩がきてからずっと機嫌悪いです」 「喧嘩売ってる?」 「そう思ったんならそうじゃないですか」
私も先輩も、むっとした顔をして海を眺める。 もう9月、やっと風が涼しくなってきた。 とはいっても日差しはまだきつかったりもする。 なんで先輩は、私のところに来たんだろう。
「…先輩」 「なんだよ」 「なんで私なんかのところに、来たんですか」 「…来ちゃ悪い?」 「そうじゃなくてっ、」 「来たかったから来たんだよ」 「…」 「お前こそ、なんで淳のとこ行かないんだよ」 「…なんであっくんの話、出すの」 「なんで、って」 「りょうちゃんだって、あっくんのこと、まだ」 「怒ってるよ」
ザァ、と海の音がする。 爽やかな風に連れられて隣に座る、亮ちゃんの髪がなびく。 長い髪の毛だなぁ。キラキラと光る髪の毛にそっと触れれば亮ちゃんは吃驚した顔のあと、呆れたように笑った。
「亮ちゃん」 「なんだよ」 「…りょーちゃん、」 「…俺も寂しいよ」 「うっ…りょー、ちゃ」 「うわ、泣くなよ馬鹿…」 「だ、って…」 「…ほんと、なまえ泣き虫」 「うぇ、りょーちゃっ…りょーちゃぁ、」 「…泣くなよ、馬鹿」
寂しいね、亮ちゃん。…ん。亮ちゃんは居てね。当たり前だろ。 ぐすん、と鼻を啜る音がとなりから聞こえた気がした。
さよなら三角またきて四角
----------- 時間軸とかむちゃくちゃで色々わけ分からん。 淳がいなくなったあと、みたいな。 一個下で幼馴染な女の子と亮。 タイトルは茫洋様より
120923 120930 加筆修正
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