ごぷり

口から空気が漏れでて、苦しい。
海水が口の中に入って、空気を求め微かに上下した喉から胃に流れ込む。
途中、器官に入ったようで、酷く喉が痛い。そして、先ほどよりも苦しい。

ごぼっ、ごぽ

口から漏れ出た空気は気泡となり海面に浮上し、パチンと弾けた。
息が、苦しい
助けて。助け、ないで。
私、私を、

刹那、力強く身体を抱かれ、海面に引き上げられる。
薄く開いた目に海水が染みる。ぼやけた視界の中で波とともに揺れる茶色い髪の毛が見えた。
ぶは、と大きく息を吸ってごほごほと咳をする。
息が整った頃には波打ち際まで来ていた。

「っげほ、」
「ぬーしてんだ」
「ゆ、じろ」
「泳げねーらんくせして、ぬーしてるんさー」
「…」
「何してんだって聞いてんだよ!!」
「っ、」
「…何考えてるんさー、やー」
「なんも、考えてない」
「…ふらー」

コツン、と軽く頭に衝撃が走る
心底疲れきった表情で私を見て、おやま座りで腕に顔を半分埋めている私の頭を引き寄せた
固い胸板に当たる。痛みは、ない。
裕次郎、と小さな声で名前を呼べば「ちゃーした、」と優しい声色で問い掛けてくる
なんで、

「…裕次郎は、ぬーして、わんに構う?」
「…理由は、わからねーらん。…やしが、ほっとけねーらん」
「お人好し」
「かしましい、」
「…裕次郎」
「ぬーがや」
「しちゅん、さー」
「…知ってる」

ぎゅ、と。
裕次郎の大きな背中に腕を回すと、さっきより強い力で抱きしめられる。
少し、苦しい。そして、痛い。
けれど、その言葉が私の口から出てくることはなかった。
裕次郎、裕次郎。
名前を呼べば強く強く抱きしめながら荒々しく私の頭を撫でる裕次郎。
ごめん、ごめんね。
死にたいなんて思って、ごめんなさい。

「わっさ、ん」
「…」
「わっさい、びーん」
「…いい」
「ゆうじろ、わっさ「もう、いいさー」
「…っ、」
「二度と、死のうとするな」
「…っ、うん」

涙と海水で、真っ赤に腫らした目をゆっくりと閉じた。
穏やかな手つきで裕次郎の親指が私のまぶたを撫でる。
パチリ、目を開いた。
裕次郎の、凛とした、真っ直ぐな視線と私のおどおどとした視線とがかち合う。
「ゆ、じろ」「…なまえ」「…」「…かなさんどー」
一拍おいて、裕次郎の唇と私のそれが重なった。

救いようが無かったのは、私

いつだって自殺志願者なんだもの。

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タイトルは薄声様より。
SSに上げていたものを加筆修正しました。

120930

 

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