「樹っちゃん、」
泣きそうな声で名前を呼べば、肩を跳ねさせて、弾かれたように振り返った。 ギリギリ涙を零さず、必死に耐える私を見て樹っちゃんは驚いたような顔をして。 そして、眉尻を下げて困った顔になり、どうしたのね、とゆっくりと優しい手つきで私の頭をなでてくれる。 再び、樹っちゃぁん、と今度は甘えたような声で名前を呼ぶ。 するとやれやれ、といった感じに曖昧に笑って、ふわりと私をその広い腕の中に収めた。 ぐす、と鼻を鳴らしてゆるゆると樹っちゃんの背に腕を回す。 肩におでこをくっつけて、ごめんね、と言えば気にしないでいいのね、と柔らかい声がするりと耳に入り込んだ。 その優しさに、せき止めていた涙が一気に溢れてきた。 樹っちゃん、樹っちゃん、何度も名前を呼ぶ。 その度にうん、うんと頷いて抱きしめる腕に、少しずつ力を加えて、それでも頭を撫でる手を休めない樹っちゃん。
「樹、っちゃん」 「今日は、どうしたのね」 「っ、おか、さんが…」 「うん」 「お前なんか、いらな、って…!」 「…そっか…」 「樹っちゃ、私…いらない、?」 「要らないわけ、ない」 「っ、樹っちゃん!」 「君は、必要だよ。居なくちゃ、俺、生きていけないのね」 「そ、れは…っ、言い過ぎ、だよ」 「言いすぎじゃない、本当のことなのね」
樹っちゃんの、力強い言葉に涙が止まらない。 樹っちゃんの肩が、いつの間にかじっとり濡れていて、申し訳なく思ったけど、今はまだこのままでいたかった。 ぐすん、と一つ鼻を鳴らしてぎゅっと樹っちゃんの背に回してる腕に、力を込める。 離れないで、行かないで、傍にいて、樹っちゃん。 幼児のように泣きながら、幼児のように我侭を言えば、樹っちゃんはいつもの優しい笑みを浮かべて「当たり前なのね」と言ってくしゃりと私の頭を撫でる手を止めた。
「樹っちゃん、」 「ん?」 「いつもありがとう」 「気にしなくて、いいのね」 「ううん、言いたいの」 「…そっか」 「うん、ありがとう」 「どういたしましてなのね」 「樹っちゃん、あのね」 「どうしたの?」 「ふふ、私ね、樹っちゃんが大好き」 「…俺も、好き」
この透明な身体には貴方を想う心臓一つ在れば良い
-------------------- 過去拍手です タイトルは薄声様より
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