テニスをしている時の樹っちゃんはとても真剣な目をしていてかっこいい。 サエと二人で敵を追い詰める、そんな姿が素敵で何より大好きだ。 でも料理をしているときの樹っちゃんも好き。 楽しそうに腕を振るう樹っちゃん、本当に可愛い。 でも料理してる樹っちゃんより、食べてる私たちを見てる樹っちゃんのほうが好き。 美味しい、って言えばありがとうと言って嬉しそうに笑う樹っちゃん。 これまた素敵。それに料理も絶品でさ。 私は樹っちゃんのお味噌汁が好きだな。あさり、美味しいよ。 でも鯖の塩焼きも絶品でね。魚苦手だったけど、あれ以来食べられるようになったもん。 あとはね、そう、味噌煮も美味しいんだよ。 でも味噌煮だけじゃなくてひじきの煮物も美味しいし。 でも酢の物も好きでさ。 いや樹っちゃんの料理は全部好き、何もかも美味しい。 ってそうじゃなくてね。 テニスしてる時の樹っちゃんも料理してる時の樹っちゃんも食べてる私たちを見てる樹っちゃんも授業を真面目に受けてる樹っちゃんも私の話を聞いてくれる樹っちゃんも、全部全部好き。大好き。だって樹っちゃんだもん。 でもね、一つだけ嫌なとこがあるの。 樹っちゃんには、絶対言わないけど。
「…ほんと、なまえ樹っちゃん好きすぎでしょ」 「しょうがないじゃん、だって樹っちゃんだもん」 「まぁ、確かに樹っちゃん優しいからね」 「でしょ?やっぱり、亮に言ってよかった」 「どうして?」 「バネとかに言えば、それこそ相談する前に終わっちゃうよ」 「クスクス、確かにね」 「バネ優しいけどね」 「うん。で、嫌なとこって?」 「一人で溜め込む所」 「…」 「樹っちゃん、すごく優しいでしょ?」 「…うん」 「優しくて、お人好しで。だけどお人好しすぎるんだ」 「そう、」 「人のことばっかり考えて、自分のこと、考えないから」 「うん」 「人のことまで背負い込んで、自分のこと言わなく、て」 「うん、」 「それがっ、嫌…樹っちゃん、も…辛いはず、なのに」 「うん」 「言わない、んだもんっ…!」
「そっか」
そこまで言い終えると、亮は優しい手つきで私の頭を撫でてくれた。 なだめるように、だけど泣いてもいいよ、と言うかのように。 ぐすぐすと鼻をすすりながら樹っちゃんの馬鹿、と呟く私を見てクスクスと独特な笑い声を上げて、「でもね、」と話を切り出した。
「でもね、」 「、?」 「樹っちゃんも、言いたいことあるらしいよ」 「え、」 「ね、樹っちゃん」 「うん、あるのね」 「樹っちゃ、」 「じゃあ、俺は行くね。なまえ、逃げちゃダメだよ」
それだけ言い残すと、亮はよいしょ、と腰を上げてバイバイと手を振って教室から出て行った。 亮がいなくなった今、この教室には私と、それから樹っちゃんしかいない。 窓の外からはだれかの笑い声と掛け声と、それから剣太郎の声が小さく聞こえた。 ぐす、と鼻を啜る。それと同時に、ギシリと床の軋む音が聞こえた。
口火を切ったのは私
----------------- 長くなったので途中で区切ります。 前編、といえばよいのでしょうか? 樹っちゃん好きです… 人のために怒る樹っちゃん、素敵です。 鯖の味噌煮が好きです。 タイトルは薄声様より。 一部改変 貴方→私
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