ドクリ、と。
心臓が音を立てる。
心臓が音を立てている間だけしか、僕たちは生きられない。

「希彦、私生きてる?」
うん、生きてるよ

「希彦、私のこと好き?」
好きだよ、大好きなのね

「ほんと?嬉しい…」
俺も嬉しいのね

「ねぇ、希彦」

ザァ、と波の音がする。蒸し暑く、湿った空気が吹き抜けた。
彼女が消えたのはいつだったか。
彼女が最後に言った言葉は何だっただろうか。
記憶が、曖昧で思い出せない。
そもそも居なくなったのだろうか。
扉からひょっこりと顔を出し、あの柔らかで心地よいソプラノで希彦と俺の名前を呼ぶんじゃないか。
意識が混濁して、朦朧として

「樹っちゃん」

違う、違うよそうじゃないだろ
樹っちゃんだなんて、呼ばないで
希彦って、名前でちゃんと、

「樹っちゃん?」

ああああ、違う。違う違う違う。
希彦だよ、ほら、希彦って呼んでよ。
いつもみたいに笑顔で、俺の名前を、
笑って、笑って、俺の名前を、

「樹っちゃん!」
「…サエ、?」
「樹っちゃん、魘されてたよ」
「そう…、」
「…ねぇ、樹っちゃん」
「ん、?」
「あのこは、もういないよ」
「、」
「もう、いないんだ」
「…分かってる」
「樹っちゃん、」
「分かってるのね、頭では。でも、やっぱり」
「樹っちゃん。」
「なんで、なんで」
「樹っちゃんは、なまえが大好きだったもんね」
「好、?」
「辛いのは、知ってるよ」
「サエ、何言って「樹っちゃん、愛してたもんね」

愛してた、?

「あ…」

―…ねぇ、希彦…愛してる。

ねぇ、をつむいで
しいその、その耳奥まで


僕が初めて愛しいと感じた彼女は枯れた花のように呆気なく散ってしまった。


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わけがわからない…
初樹っちゃんです。樹っちゃん好きです。大好きです。
樹っちゃんと、とある夏の暑い日。
ヒロインなのに名前しか出てこなくてすみません!しかも一回だけという…
重ねて言えば死んでしまっている、という…
虚しすぎるだろう、これは…
タイトルは薄声様より

120819
 

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