「わっさん、」 「許さねーらん」 「裕次郎、」
縋り付く様に名前を呼べば悲しげな表情で私を見下ろす。 ごめん、ごめんと何度口にしてももう無理だ、と言う裕次郎。 もうしない、と言っても信じられないと言う。 そりゃ、そうか。なんて頭では納得しいてるものの心と相違して、口から出るのはごめん、と言う言葉だけだった。 私に泣く資格はないと理解しつつも目から溢れてくる涙は止まらない。 せめて見せないように、と俯けば頭に暖かなものが乗せられた。 多分、裕次郎の、手だと思う。 その暖かな手が、ゆっくりと動いて私の頭を撫でる。 ごめんなさい、裕次郎。 もう何度目か、その言葉を口にした時、裕次郎は頭を撫でる手を停めて私の顔をゆるりと上げさせた。
「っ、ゆ、じろ…っ、ごめ」 「なまえ、」 「わっさいびーん、わっさ「なまえ、」…っ、」 「もう、別れよう」 「やっ、ゆうじろう!やだっ、わっさん」 「わん、もう疲れやっし」 「わっさいびーん、っ」 「なまえは、わんのこと、しちゅんあんにんだしよ」 「あらん!それはあらん!わん、裕次郎ぬくとぅ、しちゅん!」 「だったら!!…ぬーんち、浮気なんかするんばぁよ…っ!」 「裕次郎、」 「わん、やーぬくとぅ、分からねーらん、」 「…、」 「別れてくぃみそーれ、」 「…裕次郎」 「…ぬーが、」 「今まで、わっさい…裕次郎ぬくとぅ、しちゅんさー」 「っ、」
言いたいことだけ言って、裕次郎から逃げた。 涙で前が見えなくなって、転んだりもしたけどとにかく逃げた。 もうどれくらいたったか、オレンジ色の空が、夕日が傾いていつの間にか辺りは暗闇に包まれていた。 防波堤の上腰掛けて裕次郎との、たくさんの思い出を思い出す。 もう、あの時には戻れないのかと思うと止まったはずの涙がまた溢れてきた。 ごめん、ごめんね裕次郎。 どんな形でも、貴方に見て欲しかったの。気にかけて欲しかったの。 ごめんなさい、裕次郎。大好きでした。
伝えたい言葉の数々は波の音に飲まれ、私の口から出るのは皮肉にも醜い嗚咽だけであった。
誰も追いかけてくれないぞ (本当は、貴方に構ってもらいたいだけだったの)
--------------- 多分続きます? 初甲斐くんです。これは誰でしょうか。 タイトルは愛とかだるいね様より
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