好きか嫌いかと問われれば好きなんだろうけど、だからといってどうこうしたいわけではない。と言ったのは去年の4月のこと。

所謂"一目惚れ"と言う物を初めて体験し、親友に相談したところ異様と思われるテンションで聞かれた話に対しての返答が冒頭のソレだ。
別に彼氏彼女という関係になりたいわけではなかった。
ただ彼を見られるのならそれで幸せだったから。
勿論、その時は。

今となっては彼の彼女になりたい等と言う昨年とは打って変わった考えを抱いていたが彼にはいつの間にか彼女ができたらしい。
可愛くて、女の子らしくて。守ってあげたくなるような、お姫様のような女の子。
私とはまるっきり正反対で彼女ができた、と知ったときには本当に心が痛んだ。
だがしかし幸福にもアッサリした性格だったせいかそんなもんか、と割り切れば意外と考えなくなるもんだ。
そんなことを頭で考えつつ教室の入り口で嬉しそうに彼女と会話する彼を見て少し心が痛んだ。
失恋、とはこういうものなのかと改めて実感する。
自嘲気味に笑って窓から外を見下ろせばこれから体育であろう、可愛い後輩達が体操服を着てキャッキャと騒ぐ姿に今度は呆れたような視線を向ける。
何が楽しくて体育ではしゃぐんだか、なんてポツリと漏らせばジャージを着た黒髪の男の子と目があった。
彼には見覚えがあって、目を凝らして記憶をたどる。
確かざ、ざい…あぁそうだ、財前くんだ。と記憶の底から彼の名前を掘り起こし、一人納得して今一度彼を見る。
どこか不機嫌そうな視線を私に寄越しす彼に些か苛立ちを感じるものの目は離さず、しっかりと視線を交える。

すると彼はゆっくりと口を開いて私に何かを伝えようとした。

「…なん?」
『―……です』

最後の二つの言葉は分かったものの、前の言葉が分からない。
〜です?つ、?…つき?月です、なのか?いや月ちゃうやろ。と一人でブツブツと呟きながら思考を巡らせていればいつの間にかチャイムが鳴り響いていた。
結局なんだったのだろうか、なんて思いながら授業の用意をして挨拶をして授業に取り組む私は頭の片隅でやっぱりさっきの言葉が何だったのかを考えていた。

泣きっ面に恋

(財前くん、あれ、何て言うたん?)
(好きです、って言うたんスわ。)

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