赤やピンク、白と鮮やかに彩られたいちごパフェを幸せそうに頬張るダビデこと天根ヒカルくんに対し、小さく微笑みながら私はさっきやって来たばかりの暖かな珈琲に口を付け読書に勤しむ。
表情はあまり変わらず感情が読み取りにくい彼だが目は素直で、キラキラと輝かせている。
その様子がまた可愛らしく、小さく笑みを漏らせばどうしたのか、と目で訴えてきたものだからまた笑ってしまった。

「ああ、ごめんよ。なんでもない」
「…そうか」
「ふふ、気にせず食べておくれ。」
「…」

そう返すと、再び手と口をせっせと動かし始めた。
少しばかり不服そうな顔をしていたものの、パフェに手をつけ始めると打って変わったようにまたも目を輝かせ始めた。
その変わりように、一人ほくそ笑みながら小説を読み進める。
うん、やっぱり、ミステリー小説は面白い。
数分して、カラン、という音に小説から顔を上げればじっ、と私の顔を見つめている天根くんと目があった。
食べ終わったんだね、と言えばコクリと一つ頷いた。
開いているページの間に栞を挟み、鞄にしまい席を立つ。
同じように席を立ち、レジへと向かう天根くんの背中をじ、っと意味もなく睨みつけ、小さく口元に笑みをこさえ、彼の後に続く

「合計で940円になります」
「…」
「ああ、ダメだよ天根くん。私が払う約束だっただろう?」
「でも、」
「これで君に払われては、私が君とここに来た意味がなくなってしまうからね」
「…うぃ」
「ふふ、それでいいんだよ」

940円ぴったりをレジのお姉さんに私、にっこりと愛想のいい笑みを向けてレシートを受け取らずに背を向け、扉を押し外に出る。
相も変わらず長身な彼は器用に体を屈めて頭をぶつけないようにして外へ出てきた。
振り返ったときに、レジのお姉さんと目があった気がするがどうでもいい。
それより、これからどうしようかという事のほうが重要である。
全くの無計画で出てきたために、これからの事などこれっぽっちも考えてはいなかったのだからしょうがない。
さてどうしようか。

「…天根くん」
「うい」
「これから、どうする?」
「…?」
「嗚呼、どこへ行こうか、ということさ」
「…」
「行きたいところは、ないかい?」
「…特に、」
「そう…そうだ、」
「?」
「佐伯くんたちを呼ぼうか」
「え?」
「二人でいても、つまらないだろう?私は口下手だしね」
「…」
「そうと決まれば早速、「いい」え?」
「呼ばなくて、いい」
「…そうかい?」
「うぃ」

やはり分かりにくいな、という思いはあるものの、変わり者として有名な私と二人がいいと言ってくれたことが嬉しくて、手に持った携帯をポケットに突っ込んだ。
何も言わず、何処へ行くとも決めずにフラフラと歩いているといつの間にか海についていた。
あ、と短く声を上げれば天根くんは私の頭にポンと大きな手を乗せ綺麗に笑った。
バックが夕暮れの海のせいか、儚く見える。
天根くん、と声をかければうぃ、とだけ言って私の手を取った。
防波堤に腰掛けて、波打ち際で遊ぶ子供達の姿をぼんやりと眺めていれば不意にぎゅ、と繋がれた手に力が込められた。
隣に座る天根くんの顔を伺う。
目が合って、真っ直ぐな目に見据えられて私は動くことができなかった。
いつの間にか、天根くんの顔が近くにあって。

あ、と思ったときには、唇が触れていた。
ゆっくりと離れていく彼の唇、名残惜しそうになったリップ音が耳に響いた。
カッと熱くなった顔を隠すべく俯けば、また頭に手が乗っかった。
ゆっくりと、優しい手つきで撫でられて何がなんやら、分からないまま、ただ泣きそうになった。


「っ、」
「なまえ、」
「な、に…ど、したの?」
「寂しそうな、顔、してた」

途切れ途切れに繋がれた言葉に私は首をかしげた。
そんな顔、したつもりはない。
それが表情に出ていたのか、彼はしてた、とだけ、今一度言った。

「そ、う?」
「ああ」
「そっか」
「…」
「寂しい、のかな」
「多分」
「…寂しい、ねぇ」
「…俺が、いる」
「ふふ、そうだね。天根くんがいるね」
「…」
「もう、寂しくないよ」
「ん、」
「天根くんが居てくれるもんね」
「うぃ」
「天根くん」
「?」

「好きだよ、ヒカル」


濡れた睫毛
(気づいてないようだけど、泣いてたよ、君。)

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ダビデくんとホニャララ
でもダビちゃんはまぶたにちゅーとか、でこちゅーのが似合う気がする。
タイトルは秘曲様より

120804
 

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