「みょうじさん、可愛いねんな」

私の目を真っ直ぐに見つめて発された言葉はあまりにも恥ずかしい物で尚且つ珍しい物だったせいで私は目に見えて動揺を示した。
例えば口に入れようとしていたポテトを落としたり机に足をぶつけたり何を思ったか携帯を取りだそうとして落としたり。
予想外の言葉に動揺した私の姿が可笑しかったのか目の前に座る財前くんは声を潜めてくすりと笑った。
そりゃまぁ、ただのクラスメイトと相席になったかと思えば何気ない一言で大袈裟に動揺を示すんだから可笑しくもあるわな。

「いっ、いきなり何を言い出すんだね君は!」
「誰やねん。ちゅーか思ったこと言うただけやんか」
「思ったことぉ!?あり得へん!財前くんがそんなん言うわけないやん」
「お前、俺を何やと思ってんねん」
「ピアス野郎」
「うっざ。可愛い取り消しや」
「え!?あっ…うん」
「なんやねん。」
「いやぁ…初めて可愛い、言われたからちょっと、」
「初めて言うたからな。」
「せやのうて、人に。」
「…おぉ」

そう言ってちょっと吃驚したような顔でジュースを飲む財前くんをじっと見つめて携帯に視線を移す。
チカチカと光っている。いつの間にメールが来たのかと見れば今日遊ぶ約束をしていた友達からだった。
来たのは2分前。内容は用事が出来たから行けないとのこと。
…30分前から待ってた私って。
そう思いつつ目の前の財前くんをまた視界に捉えて適当に返事をする。
はぁ、と小さくため息をつけば財前くんが幸せ逃げたで。と言った。
しゃーないねんと適当にあしらって机に頭を預ければ勢い余ってゴン、と鈍い音が鳴った。

「どないしたん」
「ドタキャンやてー」
「うわダル。ドンマイ」
「うっさい。…ハァ、」
「……なぁ、」
「なんー?」
「俺とどっか行かん?」
「へ?」
「デート、せん?」

ニヤリと厭らしく笑って艶やかな声で熱っぽく囁くもんだから私の身体…特に顔は勢い良く熱くなった。
それと同時に勢い良く顔をあげたせいで財前くんの顎に頭を当ててしまった。
痛い、と呟けば財前くんも同じく呟いていた。
なんだか可笑しくてふふふ、と笑えば今度は憎らしそうな視線を私に投げ掛ける財前くん。
イケメンがそんな顔したらあかんでーと眉間の皺を伸ばしてやればなんやそれ、と呟いていた。

「俺はいつでもイケメンやから」
「イケメン拗らせて死んでまえピアス野郎」
「口悪いねんな。」
「いつもはええ子ぶっとるだけや」
「うわ、最悪」
「ピアスに言われたくないなぁ」
「で、行くん」
「?…何処に?」
「デート」
「んー。どないしょ」
「行こうや」
「…ええよ」
「よっしゃ」

小さく笑って席を立った財前くんに続く様に私も立ち上がる。
会計を別にしようとしたが無理矢理押し退けられて財前くんが払った。
申し訳なくてお金を返そうとすれば要らんから、手繋いで。と言われた。
狡いかもしれないけれど、私も出来れば出費を抑えたいからとそれに乗っかって手を繋いだ。
ゴツゴツと骨ばった男らしい手に小さく声をあげれば財前くんは不思議そうに首を傾げた。
何でもないと告げて笑えばいきなり手を剥がされた。
え、と思っていれば繋ぎ方を変えられただけだった。
さっきまでは普通の繋ぎ方だったんだけど、今度はその、恋人繋ぎや貝殻繋ぎと言われる、恋人達の繋ぎ方で少し頬が熱くなった。

「なぁ」
「ひっ!何…?」
「名前、」
「名前で呼んでな、なまえ」

そう言ってざい…光は綺麗に微笑んで繋いでいる方の手にぎゅっと力を込めた。

君と、僕と、それからえっと、

(溢れんばかりの愛情を君に注ごうか)

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