強引な君 | ナノ




『淀橋、』

愛しい彼の名を呼ぶ
すると彼はくるりと振り返り、無愛想な顔を、憎々しい目を此方に向けた

「…なんだ、」

そんな彼も愛しい
なんてことを頭の隅っこでぼんやりと考えながら常々疑問に感じていたことを聞いた
いつもよりアッサリ答えてくれたせいか、なんだか妙な感じだ

かたり、と
静かな教室に椅子を引く音が響いた
しかし、私が引いたわけじゃあない。
淀橋が、私の椅子に腰掛ける
こちらを見ている視線が、僕の席に座れと言っているようで。
なんだか嬉しかった。

かたり、と
私の隣の、淀橋の席に座る
向かい合い、笑みを溢す
見れば、淀橋も笑っていた

『ねぇ、淀橋』
「なんだ」
『最近、よく笑うようになったね』

できるだけふんわりと笑いながら言う
すると淀橋は、鳩が豆鉄砲をくらったような顔をした

「は、」
『私、笑ってる淀橋、好きだよ』

そう言って、また笑う

「笑った、僕だけか?」
『え?』

笑った僕だけか、って
そんなわけないよ、
私はどんな淀橋でも好きだよ
言いたかった、声が出なかった
だから、代わりに聞こえていない振りをして
小首を傾げて、何て言ったのとでも言うかのように彼を見据える

がたん
淀橋の椅子が倒れた
正確には、淀橋が座っていた椅子が倒れた

『淀橋?』

ゆっくりと、されど、確実に
一歩一歩私に歩み寄る淀橋
ふわり、と抱きしめられて

ぼそり、
耳元で囁かれた

「―笑った僕だけが好きか」

貞夫の声が近くて
ぬるりと私の耳に入っていくようで
頬が赤くなる
顔が熱い

『淀、橋』

彼の名を呟いた
すっと抱きしめていた腕をほどき

「なまえ、僕の膝の上においで」

と囁いた
貞夫が、名前を呼んでくれた
私は嬉しくて、嬉しくて
泣きそうになったけれど、ぐっと堪えた
泣けば、もう呼んではくれない気がする
ゆっくりと立ち上がり、椅子の横に移動した
淀橋が椅子に座る
強く、手を引かれた

「来い」
『っ、貞夫』

半ば抱き着くような形で淀橋の膝に跨がった
真正面から向かい合う
貞夫の顔を真正面から見るなんて、何年ぶりか
そう考えると急に恥ずかしくてなってきた

「なまえ、」


名前を呼ばれ、ゆるりと顔をあげる
今にも涙がこぼれそう
あぁ、恥ずかしい
けれど、顔を背けてはいけない

「可愛い、な」

いつもなら考えられない言葉を口にする貞夫
思わずぐ、と息を止めてしまった

「なまえ」

また、名前を呼ばれる
目が離せない
色気を帯びた、熱っぽい視線が私にぐさりと突き刺さる

『な、に』

やっとの思いで返事を返す
心臓がどくどくと忙しなく動く
頭がクラクラしてきた
荒い息が漏れる

「僕の彼女になれ」
『な、』

思考停止、私は頭が真っ白になった

「反論は、させない」

固まったままでいると貞夫にキスをされた
ちゅ、と優しいキス
かと思いきや、長く長く続く
息が、酸素が足りない
ぼーっとしてきた頭で考えた
口を僅かに開く
ずるり、異物が口に捩じ込まれた
それが貞夫の舌だと気付くまで、それほど時間はかからなかった
べろりと歯列を、唇をなめられた
ぐちゅりと舌を絡められた
じゅぱ、と音を立てて舌を吸われた
知らぬ間に甲高い、女の声が漏れた
それがたまらなく恥ずかしくて、目を閉じた
口の端から唾液が垂れた
私のか、貞夫のか
どちらの唾液か、だなんて
分からない
ちゅぱ、と厭らしい音を立てて唇が離された
酸素を求めて肩で息をする
ぶつり、私たちの口に繋がっていた糸が切れた
唾液を飲み込む
ぷは、とまた肩で息をする
何が、どうなって
こうなったんだっけ
ぼんやりと考えていたら目の前には白いシャツ

あれ、なんで

「好きだ」

頭の上から貞夫の声がする
好き、だって
好きって、なんだっけ
頭が覚醒していないのか、何が何だかよく分からない

「たまらなく好きだ。愛している」

ひゅうと息を吸い込んだ、
愛してる、とは
え、貞夫は、私が、好き?
うまく声が出ない
なんて返せばいいのか、な
私が分からない
貞夫が分からない
だけど、私も、貞夫が好き



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