強引な君 | ナノ



正直に言おう。驚いた。吃驚仰天である。
淀橋の手で目を覆われた時、真っ暗な視界で必死に彼を探した。
目を覆う手は掴め取れるも、身体も、何もかも消えてなくなったかのように思えて手で探っていた。
いつもの淀橋なら皮肉っぽく笑い、嫌みを述べて私を嘲笑うのに。
細くもしっかりとしたその腕の中に私を抱き込んで耳元で囁いたのだ。

「僕以外、見るな」

それは確かな独占欲であったと言えよう。私にはそうとしか聞こえなかったのだ。
今まで十何年も彼と共に生きてきたがこれほど私の胸を弾ませるような言葉は一度として耳にしたことがなかった。それが何に当ててでも、私ならきっと顔を赤くして忘れることはないであろう。
私は彼のその言葉に顔を真っ赤にして、それこそ火が出そうなほど赤く染め上げて顔を俯かせた。
ビクリと跳ねた肩で彼を意識していることがバレたであろう。しかし仕方がないと思う。
なにせ私は今言葉も出ないほどに混乱し、そして歓喜に打ち震えているのだから。
ふ、と彼をゆっくりと見上げれば其処には三日月型に弧を描いた目に、ゆるりと綻んだ口元。
優しく慈愛に満ちたその笑顔は昔よく見ていた彼のそれとなんら変わりなく私はまた驚いてガチガチに固まってしまった。
私が貞夫に見惚れているうちに「僕は教室に戻る」といつもの口調で私に告げてゆっくりとした動作で保健室から出ていってしまった。

「…っ、うそ…!」

ぽたりとこぼれ落ちた涙は
目からは、ぼたぼたと涙が溢れる
消毒薬の補給を終えて帰ってきた派出須先生に心配された
だけど、そんなことより嬉しく
なにより、貞夫が笑ってくれたことが嬉しくて
派出須先生にすがりつきながらわんわん泣いた
後から来た明日葉くんたちに心配されたけれど、凄く良いことがあったと言って誤魔化した
今日という日は忘れられない思い出になるだろう
カレンダーに、スケジュール帳に書き込んで記念日にしよう
今日は本当に、素敵な日



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