拝啓、愛しい人 | ナノ

凍てた


 しんしんと降り積もる雪を窓から見る。
白く染まる閑散とした街は少し不気味だと思う。物音一つ、物陰一つ無い街は静寂に包まれている。
窓の隙間から入り込む風が冷たくてふるりと肩を震わせた。
けれど雪を見ていたくて腕を摩りながら窓の外を眺めているとふわりと温い熱に包まれた。
振り返ると眠た気な顔で微笑むジョルノ。手を引くと私の隣に腰掛け、肩に頭を乗せた。これでは立場が逆転だと思いひっそりと笑う。
ジョルノは目を閉じて私の名前をしなやかに呼んだ。

「冬ね…とっても寒いわ」
「そうですね…寒いけれど、雪が綺麗だ」
「ねぇ、街はどんな風に見える?」
「そうですね…暖かくもあり、冷たくもあり。色が少なくて落ち着いているように見えます」
「あら、本当?私…私はね、寂しく思うわ」
「寂しく…?」
「ええ…色が少なくて、確かに落ち着いているけれど、いつもの活気が無くて寂しいわ」
「それは…そうですね」

 まだ眠た気は目をほっそりと開いて息を吐くジョルノの呼吸音が聞こえた。物静かな部屋に響くのは時計の秒針の音と呼吸音、それから私たちの話し声位だ。
緩慢な動作で私の顔を見上げるジョルノに微笑みを向けて視線を窓の外へと向けた。
 こつりと指先を窓に引っ付けてつつつ、と動かしながら一つ一つ理由を告げて行くとジョルノは少しだけ困った様に眉尻を下げてうっとりと目を伏せた。
長い睫毛が目元を縁取りなんとも美しい。神様というものは、どうしてこうも彼を美しく創ってしまわれたのか。
 カチコチと鳴り響く秒針は一分一秒と時を刻み緩やかに人を老化させていく。尤も、人間を老化させているのは秒針ではなく時そのものであるが。

「パン屋のお姉さんの声も、行き交う人達の雑踏も聞こえないもの。音が少なくて寂しい」
「…また、春がやって来ます。そうすれば、寂しくなくなりますよ」
「うふふ、そこは僕がいるから寂しくないでしょう、と言って欲しかったわ」
「でも、僕はあまり煩い方ではありませんからね。」
「そうね……でも、私あなたとこうして街を見るのが好きよ」
「ええ…僕もです」

 肩を寄せ合い窓の外を眺める。そうして他愛もない会話を交えて私たちは緩やかに老化してゆく。

 莫大な時間や歴史の中で人間の人生とは一時、もとい一瞬だ。
生まれた時から人は老いて時とともに成長し、そしてやがて消えて行く。
歴史に名を残した者は後世に伝えられその存在を伝えられる限り止められる。しかし忘れられた者というのは忘れられた瞬間に全てが無かった事になる。
生まれたこと、学んだこと、得たこと、そして死んだこと、それら全てが無に還り一つとなりまた生を受ける。

 人生とは魂の循環である。人は産まれたのなら必ず死ぬ。そしてそれを繰り返す。
私たちもまた、繰り返しているのである。

「ジョルノ、もう少ししたら暖かいカフェラッテを飲みましょう」
「…砂糖は多めにお願いしますね」
「うふふ…分かってるわ、温めにでしょう?」
「ええ…華子」
「なあに、ジョルノ」
「…また、僕と共に人生を歩んでくれますか…?」
「……当たり前じゃない」
「グラッツェ…愛しい人…」
「……おやすみなさい、ジョルノ」

 いつの間にか止んだ雪は少しばかり溶け出していた。
雲の隙間から差し込む暖かな日差しを受けてゆっくりと水に還る雪を見て私たちもいつかあんな風に還ってしまうのだと思う少し胸が軋んだ。
 もうすぐ春がやって来る。


凍てたお池で待ち合わせ
(これから春が訪れる)

140315


[ 1/3 ]

[prev] [next]
[栞を挟む]
back




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -