暗チ連載

 私の好きなことは寝ることと食べることとショッピング。
お金欲しさにギャングに入ったはいいけど、思ってたよりも給料が良くてここに来て良かったと思う。
 確かに動機は不純だった。浅はかな考えだと思うがそれくらい生活が貧窮していたのである。
ちなみに前の仕事はパン屋だったが人員削減の為に解雇されたのだ。解せぬ。

 まぁ、ギャングと言えど私は比較的安全圏にいる。
暗殺チームやら護衛チームやら麻薬チームやらと色々あるけど私が居るのは情報を操作する所謂××チームだ。
とはいえ××チームの仕事は他よりは少ないものの、前の仕事と比べると明らかに多い。
どのチームにどんな情報を受け渡せばよいかを判断し、ボスの指示に従い時にはメールで、時には自身の足で情報を運ばねばならない。
 しかし××チームは人員が少ないのだ。
メールでの情報の受け渡しとはいえ量が多いので足を運んでの受け渡しなどして居る暇が殆どと言って良いほどない。
そこで新人の私が任されたのは各チームへの情報の受け渡し。それも足を運んでのものである。××チームの先輩方はごめんねごめんねと仕切りに謝って来たが私としては好都合である。
今までパン屋で働いて来たのでパソコンなど触れる機会もなく今から覚えるのでは殊更時間が掛かってしまうのだ。それならば自分が足を運んだ方が早い。
快く引き受けると先輩方は諸手を挙げて喜んだ。
それからというもの、私は毎日何処かしらのチームへと情報を受け渡しに行って居る。

 そして今日はかの有名な暗殺チームの元へと情報を渡しに行く。
何かと嫌煙されがちであるが、暗殺チームの人々は皆が思っているよりも気さくな人たちなのだ。
情報をを受け渡しに行けば、来たついでだとお茶やお菓子を振舞われ楽しく談笑するとこもままある。
最初の頃こそ恐ろしかったが、ちょっと心を開けばただの良い人集団である。護衛チームとは勝とも劣らぬ良い人っぷりである。
一部変態もいるが、まぁそれは個性としておこう。

 さて今日もお茶をいただけるだろうか、などと馬鹿みたいな淡い期待を寄せて彼等のアジトへと向かった。なんてったって彼等は私の癒しなのである。
強面ではあるがやはり、あれでいて心根はとても優しいのだ。

「どうも、なまえです」
「あ、なまえ!またその堅苦しい挨拶?てか来てくれたんだ!俺に会いに来てくれたの?嬉しいよ。」
「情報の受け渡しだよ」
「あーうん、まぁいいや。入って入って」
「軽いなぁ、お邪魔します」

 口調も見た目も軽いこの男はメローネという。アイツはドのつく変態だといつか誰かが言っていたけれど私に関してはそうでもない。私に色気がないと言いたいのだろうか。先ほどから奴の視線が私の胸に向いている。私は着痩せするタイプなんだ。

「相変わらず胸ちっちゃいねー!」
「うるせぇよ変態殺すぞ」
「あ、そんなこと言っちゃダメでしょ〜?あっ、この前プロシュートがペッシに言ってたよ。ブッ殺すと心の中で思ったならその時既に行動は終わっている!とかなんとか」
「ごめんなさい、そういう暑苦しいのはちょっと…」
「俺じゃないから!!」
「誰が暑苦しいだブッ殺すぞ」
「「プロシュート!」」

 かったるそうに奥の部屋から出てきたプロシュートはガシガシと頭を掻きながらメローネをその切れ長の目で睨みつけた。ビクリと肩を揺らしてチラチラと視線で私に助けを求めてくるが、無視だ。
まだ貧乳と言ったことは忘れていないからな。あとブッ殺すって言いながらやっぱり殺さないのかよ。矛盾してるよ兄貴。死にたくないけど。

「うざったいぞド変態クソマスク野郎」
「口悪っ!」
「なまえ!女の子がそんな口の聞き方をするなっていっつも言ってんだろうが!」
「女の子って…プロシュートが女の子って…」
「っせぇんだよお前ら黙れ!!」

 バキィイ!と足で扉を蹴破ってやってきたクルクルパーの水色頭はギアッチョ。
彼は意外と頭が良くて分からないことがあればよく教えてもらうのだ。
最近は日本語の諺について学んでいるらしい。
年も近いし彼等の中で一番仲が良いと言っても過言ではない。
任務から帰ってきたばかりなのだろうか、靴底に血が付着していた。

「ギアッチョ靴汚い」
「ァア?…ッチ、マジかよ」
「それ高いやつだよね?今のうちに洗っちゃいなよ。」
「そうする、って言いてェとこだが俺も眠いんだよ」
「あ、じゃあやったげよっか?」
「汚ねぇぞ、誰の血か分からんしな」
「なに、ギアッチョが優しい!俺がやったげるよ!」
「お前は靴駄目にすんだろ!」
「靴ぐれぇ自分で洗えよ」
「プロシュートこの前ペッシにやらせてたよね」
「余計な事言ってんじゃねぇぞメローネ!!」
「あべしっ!!!」

 バチコーン!と殴られたメローネは蹴破られたままの玄関からビューンと飛んで行ってしまった。
おおー、なんてギアッチョと声を揃えていればプロシュートはこちらを一度見やって、それから腰を上げて部屋へと帰ってしまった。
その背中に今度一緒に出掛けてねと投げかければ片手をひらりと上げて返事をする姿がかっこよかった。
 ぼーっとプロシュートの去った扉を見つめていればドサ、と音がして、視線をやれば隣にギアッチョが座っていた。靴はいいのかと問えば良く無いと帰ってくる。簡単に血だけでも落とすからと言えば一度部屋に戻って靴を履き替えて帰ってきた。投げ渡す、なんて事はせずにちゃんと手渡してくれる所が優しいな、と思って笑えば怪訝そうな顔で私を見てくる。
ギアッチョ優しいね。言えば少し顔を顰めて、でもほんのり赤く頬を染めて、うるせぇよと言って私の頭をぐしゃりと撫でた。
 ふふふと笑って靴を洗って戻ればソファでギアッチョが寝ていた。
座ったままだと身体を痛めてしまうと思った私は一人がけのソファに無造作に掛けられていたタオルケットを拝借して、それからギアッチョの隣に少し間を開けて座った。ギアッチョの肩をぐいっと引っ張れば思ったより軽く傾いたので慌てて支えて、それからゆっくりと私の膝に頭を乗せて上げた。所謂膝枕である。
またふふふ、と一人ニヤけていればギシリと音がして振り返るとリゾットが私達を無言で見下ろしていた。
彼も任務後なのだろう、僅かに血の匂いが漂ってきたのでお風呂に入ってこいと言えばこれまた無言で頷いて風呂へ向かった。
 そういえばペッシとイルーゾォとホルマジオと、ソルベとジェラートはどうしたのだろうか。
ペッシはプロシュートが居た事からして部屋にいるのだろう。
耳をすませばホルマジオのいびきが聞こえてきたので彼も寝ているのだろう
イルーゾォは鏡の中か、もしくは任務。ソルベとジェラートはショッピングだろうか。

 考えているとまたギシリと音がしてリゾットが髪を滴らせたまま戻ってきた。
何も言わないリゾットに座るよう促せばせまいソファにぎゅうぎゅうと入り込んできて、思わず笑ってしまった。
タオルを引っつかんでわっしゃわっしゃと髪を拭いてやる。気持ち良さそうに目を細めるリゾットを見てまるで子供だと思った。

「お疲れ様、リゾット」
「あぁ」
「今日もいい天気なのに任務って嫌になるね」
「あぁ」
「ギアッチョも任務だったんだ」
「あぁ」
「二人は一緒に?バラバラ?」
「あぁ」
「ふぅん…」
「……」
「ねぇリゾット、」
「なんだ」
「おかえりなさい、リゾット」
「…ただいま、なまえ」

 僅かに微笑んで私を横から抱き締めるリゾットの頭を撫でて甘やかせばリゾットはするりと首に擦り寄ってぎゅっと抱き締める力を強めた。

 彼等は確かに残酷で冷酷で無慈悲で冷淡で冷徹であるけれどそれはどれも彼等の一面にしかすぎないのである。実際は誰よりも優しく穏やかで、それでいて朗らかで心優しい彼等は皆一様に甘える術を知らないのだ。そんな彼等を甘やかせるこの××チームの受け渡し人という役職を、私はかなり、気に入っている。

その一 ギャップで落とす


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