キュッ、とシューズの擦れる音が体育館に響く。
ボールをつく音が、網とボールが擦れる音がする。
シュパ、と音が鳴って綺麗にシュートが決まった。
そんな光景をぼんやりと見つめながら、一心不乱くボールを追いかけ、シュートを決める彼へと思いを馳せる。
あんなに長かった髪も、今ではさっぱり短くて、スポーツマンらしくてかっこいいなぁ、とか。
あの大きな手はこれからは人を殴るために使われるんじゃなくて、あの丸いボールを操るために使われるのか、とか。
それからあの長い脚は人を蹴るために使われるんじゃなくて、あの丸いボールを追いかけるために使われるのか、とか。
今までのことや、これからのことを考えると自分のことではないにせよなんだか不安になる。
今までのことで何を言われるか、どう思われるか。
バッシングなんて気にしない。
そう、彼は言ったけれど、私はどちらかと言えば臆病で、怖がりだから色々と考えてしまう。

「名前、」
「……」
「名前?」
「…え、あ」
「ぼーっとしてたぞ、大丈夫か?」
「うん、ごめんね」
「別にいいよ。悩み事か?」
「ううん、なんでもない」
「…そ、」

彼はそれだけ言って、私の横にどかりと座った。
お疲れ様、と声をかけてタオルとスポーツドリンクを手渡せば、サンキュ、と小さく笑って受け取った。
タオルを首にかけて、スポーツドリンクを飲む寿くんを見ていれば、寿くんは私の方を向いて、やっぱり悩み事だろ、なんて真剣な顔で言うからなんだか可笑しくって笑ってしまった。
なんだよ、笑うな。そう言って寿くんは私の頬を優しくつまむから痛いよ、といえば(本当は全然痛くない)すねたような顔で俺には言えないことかよ、って言って顔にタオルをかけた。

「寿くん」
「……」
「寿くん、違うよ」
「…何が違うんだよ」
「私は寿くんのこと考えてたんだよ」
「は、」

ぱさり、音を立てて寿くんの顔からタオルが落ちた。
恥ずかしくて寿くんから視線を外して、膝に落とす。
ぐしぐしと髪の毛で横からも顔が見えないようにすれば、寿くんはゴロンと私の膝に頭を乗せて、所謂膝枕をしてきたから、吃驚して声をあげれば寿くんは膝の上でくすくすと笑うから少し擽ったくて身を捩る。

「え、寿くん、えっ」
「吃驚しすぎだろ。いつもしてんのに」
「え、でも、ええ?」
「ふは、焦りすぎ」
「も、寿くん退いて!」
「嫌だ。なぁ、顔赤い」
「違う!これは、あの、暑いから!」
「っ、ぶは!」
「〜っ!寿くんの馬鹿!」
「悪かったって、な?」

未だ膝枕状態のまま、腕を伸ばして私の首に手をかけてぐっと引く寿くんに痛い!と声をあげれば(今度は本当に痛かった)、寿くんはお前がこっち見ねぇから悪い、なんて悪びれもなく言う。
はぁ、とため息を一つついて寿くんの顔を見れば、寿くんは真剣な眼差しで私を射抜いていた。

「なに、寿くん」
「お前が何考えてんのか知らねぇけど、俺は気にしねぇ」
「え、」
「他の奴らにどう思われても気にしねぇよ。言われてもな。言わせときゃいい。実力で黙らせてやる。」
「……」
「だから、お前も気にすんな」
「…でも」
「そんなこと気にする暇あったら俺の応援しとけ、俺はお前のために頑張るから、よ」
「っ、!」

寿くんの言葉に私は耳まで赤く染める。
顔が暑くて、目一杯上に向けて寿くんに見られないようにしていれば、寿くんはなんだよ、と呟いてのそりと起き上がった。
ぐっと顔を無理やり寿くんの方に向けられる。

「え、ちょっ、今無理!」
「何が無理なんだよ」
「今見ないで、ほんとに!恥ずかし、っ」
「無理」
「無理じゃなくて!」
「無理だ。…つか、俺だって恥ずかしいんだよ」
「え、えぇ?」

寿くんの手に手を重ねて顔からはがそうとするのをやめて、それからぎゅっと瞑っていた目を開ければ顔を赤くしてる寿くんと目があった。
さっきよりも顔が暑くて。視線を彷徨わせていれば、こっち見ろよ、と言われて素直にそちらを見る。

「寿くん、あの」
「うるせぇ」
「えええ…寿くん」
「うるせぇよ」
「無理だよ、はずかし…」
「黙れ」

寿くん。そう名前を呼ぼうとした唇は彼のそれによって塞がれていた。
眼前には寿くんの綺麗な眼と長い睫毛がある。
唇には柔らかい、少しカサついた感触があって、それから頬には寿くんの手があって、それから、それから。

ちゅっ

「……、」
「…眼ぐらい、伏せろよ」
「…っあ、え」
「お前は、俺の応援だけしてりゃいいんだよ。」
「ひ、さしくん」
「分かったか、馬鹿名前」

うん、とたどたどしい返事を返せば寿くんは笑って私の頭を撫でた。
穏やかに笑う彼は喧嘩をしていた時とは比べものにならない程優しい雰囲気を纏っている。
頑張ってね、と私も笑って言えば、寿くんはぎゅっと私を抱き締めて密やかに耳元で囁いた。

「お前の為にシュート決めてやるよ」

身体を離してニヒル笑った彼は、次の試合でまるでヒーロー見たいに高く飛んで綺麗にシュートを決めて爽やかに笑い私の方へと拳を突き出した。

カルミアに恋して

勝利の女神は隣の彼女


小学生の時からみっちーに恋してます。
タイトルは茫洋様の花言葉2を参考にしました。
カルミア→爽やかな笑顔
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