「ずっとね、好きだったんだ」

 ふにゃりとはにかんでそう言う彼女は幼稚園の頃からずっと一緒だった同級生の苗字名前。
けれど俺たちは別に仲が良い訳でもなく、お互いに干渉することも無くて存在は認知している、それだけだと思っていた。
俺だって幼稚園の頃からずっと一緒だと流石に覚えているし(決して忘れっぽいわけではない)何度かは声をかけた事もあった。
けれどその度に反応は薄くて、少し表情が強張るからあんまり好かれて無いんだと思っていた。
高校に入ってから以前よりは話すようになって学校だって一緒に行くようになった(親に言われたで俺たちの意思ではない)けれどやはり表情が固かった。
 だから、ずっと、一定の距離を保っていた訳だけれど、

「学校さ、一緒に行くのも、話すのもずっと、もう幼稚園の時からずっと緊張しててさぁ…あ、幼稚園の時から好きだった、んですけれども…」
「え、あ…」
「あ、あ、別に応えて欲しいとかじゃないんだよ!?もう卒業だし、大学も違うし、当たって砕けようと思って…」

 苗字って、よく分かんねぇ奴だと思ってたけど今日こうして話して見てそうでもないと考えを改めた。
こうして話を聞いているとそんなに俺のことを想ってくれていたのかと少し嬉しく思い、でも恥ずかしくも思う。
むずかゆくて首を撫でれば苗字はこちらを見てくすりと笑って、でも話を続けた。

 苗字の笑顔は正直言って可愛らしい。
こう、可愛いではなくふんわりとして柔らかな笑顔で、可愛らしいという表現がしっくりくる。
初めて正面で見た苗字の笑顔だけど、今まで見てきた友達に向ける笑顔よりも柔らかい気がする。
やっぱり、好きな奴相手だからかな、なんて。

 気恥ずかしさに視線を逸らして苗字の手元を見れば、両手を組んで親指をくるくると回している。
これは確か苗字の恥ずかしい時の癖だったと思う。
この間友達と恋バナかなんかしてる時にアレしてたから、多分そうだよな。

「でも高瀬くん、本当ちっちゃい時からずっとモテモテだったから、私なんかが近づく事なんか出来なかったんだけどね!かっこいいし、優しいし、野球上手だし、なにより野球大好きで真っ直ぐだから」
「あ、ありがと…」
「ああそうじゃなくて!えっと……あ、あの、その…幼稚園の時から、ずっと好きで、今も本当は好きで、多分これからも好き、かもしれなくて…」
「…うん、」
「えっと…あ、大学でも野球するんだよ、ね?」
「おう、やる」
「そっか…良かった、頑張ってね」
「うん」
「可愛い女の子とか見つけて、素敵な女の子と結婚して、幸せになってね…?」
「っぶは、っくく…ははは!!」
「えっ!なんで笑うのなんで笑うの!?」

 なんでなんでと焦りながら顔を赤くしてる苗字がまた面白くて笑うと苗字はもう!と言いながら少し涙目でこちらを睨んできた。
そんな顔しても怖くねーよ、と笑いで震える声で言いながら頭を撫でると顔を真っ赤に染め上げてされるがままになっている。
 触ってみると苗字の髪の毛はサラサラでふわふわで、触り心地が良かった。
トリートメントとかして頑張ってんだろうなーなんて思いながらゆっくりと頭を撫で続けていると蚊の鳴くような声で恥ずかしいと訴えた。
それがまた俺のツボにハマって笑い出すと今度は怒ることもなくただただ顔を赤く染めて必死で俯いていた。

「なんか苗字って俺のこと苦手なのかなーと思って、ちょっとよく分かんなかったけど、お前可愛いな」
「はっ、!?」
「顔、赤ェし。もう泣きそうじゃん。」
「そ、れは…っ!高瀬くんが、あ、ああ頭撫でる、から!」
「でも嬉しかっただろ?」
「っ〜〜〜!!!」
「ぶはっ!っ、はははは!!!も、やめろお前ほんと…っ!」
「も、もぉ〜…!!」
「ひ、はは!!おっ前、本当可愛い!」
「か、からかってる!?喧嘩売ってるの!?買うよ!!」
「ひっ〜、!も、やめ…っ、げほっ」
「そ、そんな笑わなくても…」
「ごめ、収まるから…っぷ、ふは…」

 ゲラゲラも笑っていると苗字が仕方ないといった風に苦笑してハンカチを差し出してきた。有難く受け取って笑いすぎて零れた涙を拭く。
やっと笑いが収まってきたところでちゃんと苗字に向き合う。
スッキリした顔をしている苗字は多分、俺がフられると思っているのだろう。
こう言っちゃなんだが、阿呆である。

「あのさ、」
「うん」
「俺もお前のこと好きなんだけど」
「…う、うん?」
「俺もお前のことが好きなんだけど」
「待て高瀬くん血迷ったか?」
「ぶふっ、血迷っ…!ち、違ぇよ。前からずっと好きなんだよ」
「え…」

 アホ面曝け出してぽかんとしている苗字、いや名前の腕を引いて抱きしめる。ぐんと近付いた距離に満足して腰を引き寄せて無意識に上目遣いをする名前の額と俺のをコツンと合わせる。
途端に真っ赤っかになった名前がまた可愛くて小さく笑うと視線を彷徨わせてもごもごと口を動かしている。
可愛い。呟くとぎゅっと俺の服の裾を掴んだ。本当に可愛い。

「高校入ってからかな、名前と一緒に学校行くようになってさ、ちょっと意識し出して」
「表情固いし、嫌われてんのかなーなんて思いながらも同じ学校だったしなーって観察してて」
「そしたら、笑顔可愛いし、面白いし、気遣い出来て料理上手そうだし、努力家でちょっと天然で鈍感でさ」
「で、今日分かったけど一途だし」
「よく考えたら俺、ずっと名前のこと見てたなーって」
「小学校の時とか、泣いてた奴の手引いて一緒に遊んだりしてたろ?」
「色々考えてさ…本当、好きだなって」
「思ってんだけど…名前、俺のことフるの?」

 首を傾げて挑発的な笑みを浮かべれば赤を通り越して青褪めた名前が面白くて面白くて思わず吹き出してしまった。
それからもう一度名前を見ると、今度は優しい顔をして準太くん、と言う。
なあに、なんて俺にしては甘えた声を出して問えば付き合ってくださいと紡がれる言葉。
喜んで、と返事をして柔らかそうな赤い唇を奪ってやった。


幸せ色に染まる頃



タイトルは秘曲様、いつまでも初恋より。
タレ目の高瀬!タレ目の高瀬やーい!
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