!特殊設定有り。表現は殆ど出てきませんが転生主で純血。レギュラスと同じ様な立場にいます。



 湖面を抉る様に蹴り上げるとパシャンという音と共に水飛沫が上がった。背後ではレギュラス・アークタルス・ブラックが興味津々に仄暗い目で私を見つめている。
ブラックから発せられた、まだ稚さを残したのやや高い声に耳を傾けた。

「苗字先輩はこの世界についてどう思っているんですか?」
「世知辛い世の中だと常々思っているよ」

 蹴り上げた湖面は波紋を広げ、それは次第に大きく広がってゆく。まるで年輪のようだ。あれはこれほど美しい輪を描きはしないけれども。
大きく広がった波の輪は次第に穏やかさを取り戻し、やがて湖の淵で鳴ったちゃぷんという音と共に消えた。

「そんなこと、どうして」

 訝しげな声に振り向けばブラックは先程とは打って変わって端整な顔を歪めて眉間に皺を寄せている。
きっと彼も家柄が良いことだから、気付かぬ間に刷り込まれたのだろう。純血が正しいものなのだと。大人とはどうにも意地の悪い生き物だと思う。
というよりも、人とはやはり醜い生き物だ。己の思想を我が子に植え付けそれを不変のものだと信じさせる等、なんと悲しきことか。
しかしそれも私個人の意見なので人様の”お家の事情”とやらに首を突っ込むつもりは毛頭無い。
最も、聞かれれば答える程度だが。

「こちらの人々は皆考え方が一様で面白味がないん。きっと幼い頃の刷り込みだろうて。ああでも、此方で言うマグル生まれの子達はまだ、少し面白味がある。しかしこのホグワーツに来てからと言うもの、やはり思考が偏りがちだね。」
「それは純血思想の事ですか?それとも寮同士の対立についてですか?」
「否、何方も。」

 彼はまた気難しい顔をして私の近くに歩み寄ってきた。目の前でピタリと足が止まる。
なあにと柔らかく声を掛ければ一層真面目な顔で私に告げる。貴方の考えが聞きたいと。
私は緩やかに微笑んで彼に背を向けた。
 しかし彼は私が先程零した言葉をちゃんと耳にしたのだろうか。図らずして零した言葉であるが、聞かれていても聞かれていなくともどうでもよかったが、一応気にしてみる。

「さて、どこから話そうか」
「純血主義についてから、お願いします」
「君は姦しく喧しいまるで性格が女性のようなお兄さんとは違い、しっかり者の様だ。家を次ぐならまさしく君の様な聡明で合理主義な男の方がいいだろう。ご両親もそう痛感している筈だ。さて、少し脱線してしまったが、そうだね。まずは純血思想について。」

 コホンと咳払いを一つすれば彼は姿勢を正した。真剣な眼差しを一身に受けながらも私はゆっくりと口を開く。柔らかに、高らかに、歌うように。演説をする気分で私は舌から喉から言葉を紡いでいった。

「まず、純血は正しいという考えがあるが、それは間違いだと思っている。純血だから何だというのだ。だが確かに純血は誇るべきものであると思う。しかし純血家系の中でも恐らく一人二人ははみ出しものがいるはずだ。罪を犯したもの、血を裏切るものがいるだろう。しかし、事実それは、些細なことに過ぎない。」
「どうして些細なことに過ぎないのですか?純血に生まれたのだから純血としての誇りを持ち気高くあるべきです」
「そう、そうだね。確かに純血家系の人々は誇りを持ち気高くあるべきだと思う。しかしそれを全ての人間に押し付けるというのは些か傲慢だ。人それぞれ個性というものがある。ブラック、君と私の容姿が違うのもまた一つの個性だ。私が女で君が男であるのも、また然り。人とはそれぞれ個性を持ち生まれてくる。同じ人間など一人たりでいない。」
「確かに個性と言えなくも無いですがそれは屁理屈では…」
「まぁ、聞きたまえ。押し付けとは余計に反発するものだ。君の兄上もそうだろう。純血でありながら勇猛果敢な獅子寮へといった。彼とその周りの彼等が行う悪戯と称した苛めも偏見と嫌悪によるものだが…まぁそれは後だ。問題は押し付けはすべきでないということ。要らないお菓子を押し付けられても迷惑極まりないだろう?規模の違いだけでようは同じなんだ」
「…確かに、要らないものを押し付けられても迷惑なだけです。しかし純血は要らないものではありません」
「それはブラック、君の考えだ。現に君の兄上は要らないものと切り捨てた。謂わばこれも一つの個性なのだよ。その上で君の兄上は家族と反りが合わなかった…それだけのことだ。純血に固執して何になる?スリザリンで優遇されることが幸せか、身近な幸せをかき集める方が良いか…私は後者だと思うがね。至って容易だ。誰にだって出来る。そう難しいことじゃあない」
「僕は優遇されることの方が幸せだと思います。ブラック家を更に繁栄させることこそが僕の役割だと思っています。」
「それこそ考え方の違いさ。個性だ。君と私の考え方が違うのと君と兄上の考え方が違うのも、同じことだと思わないかい?」
「そう、ですが…」

 苦虫を噛み砕いた様な顔をしたブラックは納得がいかないとその表情が物語っている。
やはり口を開き、再度呟くように私を睨めつけながら「それは屁理屈だ」と断定する。そちらから意見を聞いて来たというのに私のことは全否定とは、これ如何に。
 しかし、面白い。
私は立ち上がってブラックの前へ立った。

「ブラック、君は私の意見が聞きたいと言ったから私はそれを述べたまでだ。」
「、はい」
「なのに、それなのに君は私の意見を悉く”屁理屈だ”と一蹴して全否定をするなど、一体どういうことだ?」
「っ、だけど、貴方のそれはやはり屁理屈以外の何でもない!詭弁だ!」
「ほう、詭弁とな。それもまた良し。中々いい事を言うじゃないかブラック。しかし私が、いつ、君に私の思想が正解だと思わせた?」
「それはっ、」
「本当は、君も心の奥底でそう思っていたんじゃあないのかい?」
「!!!」
「君の家の屋敷しもべ妖精がボロ雑巾の様な姿で帰った時から君は疑心暗鬼になっていた…むくむくと膨れる猜疑心と根付いている”純血思想”との間で揺れ動き、またその揺れに辟易して私に解答を求めた……差し詰めこんなところか」
「なぜ、貴方は…」
「いい事を教えてやろう、ブラック」

 最初に見た彼の目の仄暗さは猜疑心と絶対なる純血思想との間に挟まれ辟易したそれだった。
見れば見るほど暗く闇に堕ちていくような目をしているブラックに向けてシニカルな笑みを浮かべる。
ピクリと肩を揺らして薄っすらと涙の膜が張られた目を不安げに彷徨わせつつも私を伺う姿が面白い。
そう、そうだ。いい事を教えてあげよう。

「理屈が通らないのなら屁理屈を通せばいい。家と大切な物を比べる必要など無い。何故ならば家も大切な物の一つだからだ。ならどうすればブラック家を繁栄させられ、尚且つ大切なものを傷付けなくて済むかを考えるんだ」
「そ、んなこと…」
「出来ないと言うか?明晰な頭脳とグリフィンドール生と負けず劣らずな勇気をその身に宿しているというのに。それでは宝の持ち腐れだ…」
「せんぱい、」
「レギュラス、アークタルス、ブラック。君は紛れもない獅子だ。君の兄の様な大犬ではない。獅子である。」
「まさか、僕が獅子な訳がない」
「随分と過小評価をするのだね。自信を持て。そしてこの私を信じなさい。嫌だとは言わせない。君をここで腐らせるわけにはいかないんだ。」
「僕には…荷が重い」
「いい加減に君でなければならないということに気付け!」

 とうとう涙を一筋流した彼はくしゃりと顔を歪めた。俯いて何も話さない彼の肩を優しく掴んで顔を上げる様に言うとゆったりとした動作ではあったがしっかりと顔を上げた。
肩から頬へと手を滑らせて額同士をこつりと合わせる。涙で濡れた彼の目はまるで満天の星空の様な美しさを放っている。
瞠目するブラックの後頭部を少し撫でると肩の力を抜いた。

「ブラック…いいやレギュラス。君と私はよく似ている。殆ど君と何ら変わりない状況に私は居る。だからこそ助けを求めたのだろうね」
「…っ、名前先輩、僕、僕はまだ…」
「その先は言ってはいけないよ……いいかいレギュラス、君には私が居るわ。同じ境遇のこの私が居るわ。だから何も寂しくはない。辛くはない。苦しくはない。大丈夫よ。」
「せんぱ、い」
「誰がやらなければならない事よ。それが偶然私達だっただけ。それだけの事なの。」
「名前…、せん、ぱ」
「家も大切なものも全て守れるのは私達しかいないのよ」
「う、…ぁ、」
「獅子座の星レグルス、私だけはちゃんと貴方を見ているわ。勇猛果敢な貴方の雄姿を…」

 お世辞にも心地いいとは言えないだろう私の腕の中にまだ不安定なレギュラスを閉じ込めてしまえば、彼はそれを甘受して大きな声で泣き叫んだ。
己の都合しか考えぬ大人どもの手により彼は虚しくも学生のままその生涯の幕を閉じるだろう。そして私も同じく。
残された道は何方も死。足掻いても抜け出せぬ泥沼に嵌ってしまった私達は差し詰め飛んで火に入った夏の虫だろう。ああなんと滑稽な事か。
自嘲滋味た笑みをひっそりと浮かべる。
されども彼の慟哭は止まなかった。



数日後、校長の口から彼が行方不明だという事を聞かされた私は静かに瞼を閉じた。


ふりむかず生きて/title 自慰
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