ぐちゃぐちゃの寝癖だらけの髪の毛を何とか整えて鏡の前で服を整える。チラリと時計を見ればもう待ち合わせの五分前だった。ここから待ち合わせ場所まで、早くても15分は掛かるのでこれは完璧に遅刻だろう。


あぁ、もう!と小さく愚痴を零してひったくる様にバッグを掴む。中を確認すれば昨日作った綺麗にラッピングしたクッキーは所々砕けていてなんて不格好なのだろう、と泣きそうになった。


心配性な彼に少し遅れる旨を伝えるとゆっくりでも良いから慌てないでください、と返事がきてまた泣きそうになった。
彼の優しさが、今日ばかりは心に染みる。
バッグに携帯を突っ込んでお気に入りのパンプスを脚に引っ掛けて家から出る。
鍵を閉めようとバッグを探るも鍵は無くて家の中に引き返すことになった。なんでよりによって今日なの、なんて泣き言を漏らしながらも急いで用意をしてやって来たエレベーターに飛び乗った。


暫くして待ち合わせ場所に着くと綺麗な女の人に囲まれた私の彼が居た。彼はそういった女の人が苦手だと言っていたから余計に申し訳なさが募って、それでもどう声をかければ良いのかと迷っていると私に気づいた彼は人混みをかき分けて私の元へとやって来てくれた。


「ご、ごめんなさい!」
「いえ、気にしていません。それよりも怪我などはありませんか?ちゃんと鍵、掛けましたか?」
「えぇ、勿論…本当にごめんなさい、折角貴方とのデートなのに…」
「ふふ、貴方の為ならば何時迄も待てますよ。それよりほら、行きましょう。バッグを貸してください」
「そんな、申し訳ないわ!」
「彼氏の顔を、立ててくれませんか?」


申し訳なさげに下げられた眉毛を見るともう何も言えなくて、素直にバッグを渡してごめんなさい、ともう一度謝ればありがとうが聞きたいと言われてしまいこの人には勝てないな、と思った。
小声でグラッツェ、と言えば彼はくすりと笑ってプレーゴ、と柔らかな声色で言う。


手を繋いでバールで買い物をする時も、カゴを持ってくれたりする彼は根っからのイタリアーノだと思う。
紳士的な態度と言動には舌を巻くばかりで彼の優しさは何で出来ているのだろう、なんて考えることもままある。
朗らかに笑ってお茶にしましょう、と手を引く彼にされるがままの私達は、はたから見れば恋人と言うよりも面倒見の良い兄とその妹だろう。そう考えると悲しくて顔を俯かせると彼はピタリと脚を止めて振り返る。


「どうしました?」
「え?あぁ…なんでもないの、少し考え事を」
「そうですか…あまり、無理はしないでくださいね」


眉を下げて笑う彼に笑みを返してグラッツェと告げればまた柔らかく笑ってプレーゴと返して来る。
カフェに着いてカプチーノを頼むと彼からバッグを受け取って中にあるクッキーをどうしようかと迷う。
今更渡すのも何だか気が引けるし、大体形も悪い。これは持って帰ってまた今度、綺麗なものを彼にあげようと考えた所でその彼に声を掛けられた。


「どうしました?」
「なんでもないわ、大丈夫よ」
「その割には難しい顔をしていますよ」
「…本当に何もないわ、ただ」
「ただ?」
「…あー、足が疲れちゃっただけよ」


困った様な作り笑いを浮かべれば彼はすっと目を細くして私を見たあと、悲しげな顔をしてすみません、と謝った。僕が沢山連れ回したから、と。
慌ててそれは違うの、そうじゃあないわと返せばじゃあ何ですか、と聞かれ、彼にバレていることを確信した。
彼は嘘を見抜くのがとても上手い。
トランプでのイカサマも、日常的な嘘も、何だってすぐに見抜いてしまうのだ。


降参、と言う様に両手を軽くあげてバッグの中からクッキーを取り出す。
恥ずかしくて顔が見れないから、自分の膝を見ながら事の経緯を話せば彼はクスクス笑って私の手をとった。


「そんな事で悩んでいたんですか」
「そんな事って…酷い」
「すみません。でも、可愛くて」
「な、ん…」
「僕の為に焼いてくれたんでしょう?なら、どんな形でも構いませんよ。それに、今日遅刻したのだって、僕とのデートを楽しみにしてくれていたからでしょう?」
「…えぇ、そうよ…」
「ふふふ…僕の為にしてくれる、ってことが嬉しいんですよ。」
「で、でも!…私、貴方に酷いこと言ったり、しちゃったもの…」
「それはこの前でしょう?それに、照れ隠しだと分かって居ますよ」
「だ、ダイエットしたのにまた、戻っちゃったし…」
「そのままで良いんですよ。そのままでも充分魅力的ですし、そのままの名前が好きですから」


にっこりと笑って恥ずかしがる様子も無く言ってのける彼と、本格的に目を合わせられなくなって俯いてテーブルに額を預けるようにすればくしゃりと頭を撫でられた。
恥ずかしくてたまらない、と零せばまたふふふと笑って「そんな名前が好きだ」と言うから「ジョルノの馬鹿」と返せば「馬鹿な僕に惚れた貴方も馬鹿でしょう」と言われて何も言い返せなくて押し黙ってしまった。
髪の毛を梳く様に撫でられて貴方の顔が見たいと言われたらその通りにするしか出来なくて、ゆっくりと顔を上げれば優しい笑みを浮かべたジョルノがまたくすりと微笑んで「顔、赤いですよ」と言うからまた顔を伏せてしまった。





これで彼が年下だなんて、何かの間違いじゃあないかと思う。




東/京/カ/ラ/ン/コ/ロ/ンさんのtrue!/true!/true!をイメージして書きましたが何か違う。
130526
 

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