「ジョルノ…」 「なんですか?」 「…なんでもないの、ごめんなさい」 くしゃりと笑って名前は僕に背を向けた。わいわいと騒ぐミスタ達の所へと足を向けている。あぁまたか。 ここ最近の名前は何処か様子がおかしかった。 元々僕が無理を言って日本から連れて来た女性であった。 柔和な笑顔で毒を吐く様な女が珍しかったのもあるが、やはり、それだけではない。 強かな物言いの割に柔らかな雰囲気を醸し出す彼女を気に入っているのである。 ジョルノ、と女にしては低めのアルト(男と比べれば十二分に高い)で、僕の名前を呼ぶ。 なんですか、と返事を返せば先程のようにくしゃりと笑って、なんでもないの、ごめんなさいと謝ってミスタ達の所へと向かうのだ。 一体どうしたのか。気になるものの深く追求はしない。 事実、彼女のあの笑った顔がそう語りかけているのだ。 何も聞かないで、と。悲しみの色を孕ませたあの笑った顔が。 「…なんなんだ、本当に」 「ジョルノ、任務だ」 「えぇ…今行きます」 ブチャラティに呼ばれて服装を正し、任務へと向かう為に席を立つ。 その際チラリと奥へ目を向ければ名前が壁に寄りかかり、薄く口を開いて僕を見つめて居た。 扉へ向けて居た足を止めて彼女の方へ向かう。 未だぼんやりと僕を見つめる名前の前まで行き、上から見下ろす。 うっとりと、ぼんやりと。僕を見上げる名前はゆるりと口角を釣り上げて行ってらっしゃい、と言った。 「行ってらっしゃい、ジョルノ」 「……」 「ジョルノ…?」 「…えぇ、行って来ます」 「気を付けてね」 「えぇ」 「コーヒーでも淹れて待ってるわ」 「えぇ」 「…ジョルノ」 「なんです」 「…なんでも、ないの」 ごめんね。くしゃり。 名前が笑う。またこの顔か。 僕は小さく舌打ちをして名前の背に腕を回し引き寄せた。 とん、と柔らかな衝撃が胸にくる。 名前。名前を呼べばおどおどとしながら僕の上着をきゅっと握った。 名前。もう一度名前を呼ぶ。 今度は苦しそうに息を吐き出した後、なあに、と応えた。 名前。 「好きです」 「……」 「僕は、貴方が好きです」 「…ジョルノ」 「ずっと、好きだったんです。日本で貴方に会った、あの時からずっと。今も昔も、変わらず」 「ジョルノ、」 「いつもそばに居て、僕の事を、それから彼らの事も心配してくれた」 「…」 「好きです、名前のことが」 「ジョルノ、っ」 「ねぇ」 「な、に?」 「名前は、」 僕が好きですか。 零れそうになった言葉をぐ、と抑えて、代わりに腕の力を強くすれば痛い、と小さく名前が訴えた。僕はゆっくりと身体を離す。 何か言おうと口を開けるも、何を言っていいのかさっぱりで、口を閉ざす。 同じことを数回していると、ジョルノ、とあのアルトが聞こえた。 「…なんです」 「私、」 「……」 「私、貴方が好きよ」 「っ、」 「ずっと、ずっとずっと。ずぅっと、昔から。今でも。大好き」 ふんわりと背中へ回された腕に愛しさが込み上げてくる。 昔からそうだった。 厳しい言葉をぶつけていかにも怒っていると態度に出し不機嫌さを醸し出しながらも、怪我をする度に、傷つく度に、名前は甲斐甲斐しく世話を焼き最後にはもう怪我はしないで、と泣きそうな声で告げては僕を優しく抱きしめるのだ。 僕はその時に聞こえる、名前の心臓の音が何よりも好きだった。 どくん、どくんと一定のスピードで鳴り響くそれは名前がちゃんと生きているということを、明確に表していた。 眠れない夜は名前の下へ行って何も言わずにベッドに潜り込んだりした。名前も名前で何も言わず、ただ優しく、いつもの態度とは違い優しく抱きしめてくれた。 その居心地の良さと、名前の優しさと、そして何よりあのくしゃりとした笑顔に僕はいつしか惚れて居たのだ。 「名前」 「なあに」 「名前、名前名前」 「なあに、ジョルノ」 「…愛してます」 「…私も、愛してるわ」 しっかりのその頼りにしていた背中に腕を回した。 これからは僕が頼られる番だ、と心内で決意して瞼を閉じて彼女の肩に顔を埋めた。 ゆっくりと息を吸えば昔から変わらない彼女の柔らかで甘やかな香りが鼻腔いっぱいに広がり、そして胸へと落ちて全身を駆け巡る。 彼女に満たされているような感覚である。 中毒性のある香りであることに、間違いないだろう。 人を惑わせる、そんな匂いだった。 「何よりも愛してる」 宣言する様に囁いてその耳にキスを落とせばふるりと小さく震えた。 「…愛してる」 再び囁いて腕に込める力を強めた。 愛しているんだ、本当に。何よりも、どんなものよりも。 閉じていた瞼を開いて彼女の唇を柔らかく掠め取ってやれば瞠目した後にくふりと幸せそうに笑んだ。 その笑顔だけで今日も僕は救われるのだ。 冒涜のデパート そうして僕は君を汚そう。 title それがな弍か? 130712 加筆修正 130913
|