ばふんと盛大な音を立ててベッドに飛び乗ればスプリングがギシギシと悲鳴をあげた。 シーツを抱き締めて思い切り息を吸えば大好きな彼の匂いに自然と笑みが漏れる。 枕に顔を埋めて匂いを堪能している私の姿は正に変態と言えよう。 けれど、大好きな彼の匂いを嗅いでしまえば自然とこうなるのだから。 私はその顔を引き締める術を持たないのだから。 仕方が無い、ということにしておいてほしい。 部屋の主の名前を小さな声で呼んでシーツに包まり枕を抱きしめる。 うりうりと頬ずりしてだらしない笑みをそのままにまた名前を呼べばギシリという床の軋む音と何ですか、という柔らかな彼の声。 びっくりして飛び起きた私に対して朗らかな笑みを浮かべて口元に軽く握った拳を当てクスクスと笑う彼はジョルノ・ジョバァーナといい、この部屋の主であり更には私の想い人である。 カッと熱くなった顔を隠す様にまたシーツを被ればジョルノはふふふ、と笑いながら一歩、また一歩と私との距離を縮める。 その証拠にギシギシと軋む床は私と彼の距離を教えてくれる。 ああ全く、なんてことだ。 頭までシーツに包まって顔を赤くしている私の隣に座った彼は優しい手つきでシーツを剥がしにかかる。 「ちょっと、ジョルノ」 「なんですか?」 「シーツから手を離して」 「それは無理な話ですよ。」 「だめ、離して」 「なら、貴方が出てきてくれたら良いんですよ」 「ダメよ」 「ならば仕方ありませんね」 ばさりと音を立てて勢い良く剥がれたシーツに唖然としながらジョルノを見れば意地の悪い笑みを浮かべて私を見下ろしていた。 最初からこう出来たのにしなかったのは、私と他愛のないやり取りがしたかったからなのだろうか。 ぼんやりと考えながら手で顔を覆えば優しく手首を掴む暖かい彼の手。 「顔を見せてください」 「いや」 「どうして?」 「恥ずかしいから」 「可愛いですね」 「うるさい」 「本当に、」 可愛らしいお人だ。 そう言って私の手首を持ち上げ頭の上で纏め上げたジョルノに痛い、と抗議すれば顔を見せてくれないのが悪い、と悪びれる素ぶりもせずに言うものだから呆れてため息を吐けば額に柔らかな感触とリップ音が鳴った。 目を丸くしてジョルノを見つめれば口の端を持ち上げて、一音一音確かめるみたいにゆっくりと言葉を繋いだ。 「あぁ、僕の愛しい人。寂しかったのですか?」 「っ……」 「僕は寂しかった。愛しい、貴方に会えなかったのですから」 「…ば、かジョルノ」 「すみません、名前…会いたかった」 にっこり。 そう効果音がつきそうな程綺麗に笑んだ。 するとごくりと生唾を飲み込んだ私の喉にジョルノが手を当てる。 少しだけ、力を入れられる。 ごくり。喉が嚥下した。 私の揺れ動く視線は決してジョルノのそれと絡む事は、ない。 名前。 名前を呼ばれ、身体をその逞しい腕で抱かれ、その男らしさにふるりと身体が震えた。彼の服の裾をつかむ。 彼はシニカルに笑んで、すっと目を細めた。 手首についた赤い痕を撫でて慈悲深く口付けを落とすジョルノの洗練された動きにどこか狂気が垣間見える。 酷く恐ろしいその色香は今にも私を喰らいそうである。 獲物を狙う猛禽類の様な獰猛な、それでいて鋭い視線を投げ掛けられて、息が詰まりそうだ。 「ジョルノ、」 「なんです、名前…あぁ、キスですか」 「違う」 「そうですか、でも僕がしたい」 グッと近づいた距離にドキリとして思わず目を瞑ってしまう。 ふわりとジョルノの太陽の匂いが鼻を掠める。 唇に柔らかいものが押し当てられた。 可愛らしいリップ音を立てて離れた後、ゆっくりと目を開ければ穏やかな顔で私を見下ろすジョルノと目があった。 いつになく優しい笑顔に当惑して視線を彷徨わせているとクスクスと笑い声が聞こえて来て、遠慮がちにそちらに視線をやれば楽しげに笑うジョルノと目があった。 なんだか気まずくて目をそらせば顎を掴まれて顔ごとジョルノの方を向かされる。 恥ずかしいけれど嬉しい気持ちの方が優って、ベッドにだらしなく放り出していた腕を彼の首に巻きつけた。 「積極的ですね」 「そうでもない。まだ貴方程積極的にはなれない」 「今後は?」 「なれたらいいなって」 「いい心がけです」 ニコリと微笑んで私の胸元に顔を埋めたジョルノの背に手を回してあやす様に優しく、一定のリズムで叩いてやる。 今日あった事や思ったことを話してくれながら、うつらうつらとしてきたジョルノが可愛くて愛しくてついつい抱き締めてしまった。 脳天にキスをしてもう寝なよ、と言って髪を撫でた。 ジョルノは擽ったそうに微笑んで私を抱きしめる。 私の腕の中で穏やかに眠る黄金の意思を持つ彼は、その実誰よりも愛に飢えている。 おなかが痛いの 下腹部に響く程の愛は要らない title 舌 130706
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