今。 僕の隣で薄いタオルケットに包まれて眠っている彼女は、僕の大切な人である。 そして彼女は、僕の愛しいひとでもある。 愛しいひと、と言うのもそれは友愛のそれではない。 どちらかといえば恋人に向けるそれ…所謂恋愛感情に酷似している。というよりも、それでしか、ない。 そっと肩までタオルケットを掛け直して顔に掛かっている髪を退けてやれば小さく唸ってまた安らかな顔をしてすやすやと眠る。 その姿が可愛くて、額に一つ、キスを落とせばゆるりと瞼が開かれた。 光が眩しいと言うかの如く細められた目と眉間による皺ですら愛しくて可愛くて、くすりと笑えば安堵したのか名前もふんわりと柔和な笑みを浮かべてジョルノ、と歌う様にして女性にしては少しばかり低い、アルトで僕の名前を呼ぶ。 ジョルノ。 もう一度名前を呼ばれてからはい、と返事をすれば彼女は細めた目を閉じて好きよと言った。 可愛い人だ。小さく呟いて色白の頬にキスをすれば彼女はふ、と笑って頬を薄紅色に染めた。 「ジョルノ、髪が当たってくすぐったいわ」 「あぁ、すまない…でも離れたくないんだ」 「珍しい。貴方が甘えるだなんて」 「たまには甘えるさ。僕だって抱えきれないこともある」 「今日はそうじゃあないんでしょう?」 「まぁね。で、甘えて欲しくないのか?」 「そうじゃあないわ。ただ、珍しいから。その…嬉しくて」 ほわりと頬を薄紅色に染めて恥らう彼女をゆるく抱き締めて額にバチャーレを一つ落とせば微笑んだ。 シーツの擦れる音がどこか背徳的で背筋がぞくりとした。くつりと小さく笑んで彼女の肩口に額を押し付ける。うりうり、と顔を左右にゆっくりと動かして擦り付けると、柔らかな指先が僕の頭に触れ、そして後頭部を一度、ゆるりと撫でた。 「…にゃあん」 猫の真似事をして一声鳴いてみれば彼女は驚いた顔をしてふにゃりとだらしのない笑みを浮かべる。あぁそうか、彼女は動物が好きだった。 「ジョルノ、可愛いわ」 「そうか?なら…わん、わん」 「ふふ、今度は犬ね。」 「げこげこ、カエルはどうだ?」 「あはは!ジョルノったら面白いわね!でも、貴方は猫に似ている気がするわ。気まぐれな猫。野良猫だけど、とってもプライドが高いの。」 「そうか?なら、にゃあと鳴かないとな。」 「うふふ、素敵よジョルノ。ねぇ、鳴いて見せて」 「幾らでも。…にゃあ」 にゃあ、と鳴く度にふにゃふにゃの蕩けた笑みを浮かべる彼女の鼻先にまた一つ、バチャーレを落としてにゃあと鳴けば面食らった顔をして恥ずかしげに俯いた。 いくら楽しくても、突然キスをされるのはまだ苦手みたいだ。早く慣れてくれればいいけれど。 にゃあ。猫の鳴き真似をして彼女に覆いかぶさる。背に回していた腕を解いて手を、指を絡めて頭上で縫い止めれば一気に顔を赤くして慌てて僕の名前を呼んだ。 ジョルノ、離して。ジョルノ、恥ずかしいわ。ジョルノ、ジョルノ。 くつくつと喉を鳴らして笑って、縫い付けていた手を離せばホッと一息吐いて、それから酷いわ、と咎めるような目で僕を見上げた。 解いた手を絡めて、また解く。それからまた繋いで、絡めて。解く。 そんなことを繰り返しながらすまなかったと謝れば次は無いわよ、なんて甘い言葉を僕に投げ掛けて苦笑を浮かべた。 どこまでもお人よしでどこまでも優しくどこまでも愚直な恋人の目を真っ直ぐに見つめると彼女は恥ずかしそうに視線を逸らした後、今一度顔をこちらに向けてゆっくりと目を伏せた。 徐々に距離を詰めて彼女の唇に迫る。やがて口唇は彼女のそこに引っ付いた。 触れた場所からじわりじわりと広がる熱に歓喜しながらも押し当てた唇を離す事はしなかった。秒針の進む音だけが静かに部屋に響いて僕たちを包み込んでいる。 ゆっくりと離れた唇は暑く熱を持ち脳を麻痺させて行く。 スプリングがギシリと鳴る。 僕は彼女を少しずつ食べて行く。 熱をもつ瞼 このまま時が止まってしまえば、そう考えて、やめた。 ボンジョルノジョルノ好きだよ、が朝の挨拶になりつつある依子でございます。 バチャーレとはイタリア語でキスを意味する言葉です。ググりました。 タイトルは舌様より。毎度お世話になっております。 130612
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