自意識過剰な名前は、いつもは傲慢で高慢ちきな態度を取るくせに、自分の心を許したやつに辛く当たられると途端に顔色を悪くして涙目になる。
現に今だってそうだ。うざったいと思ったからそう言ってやれば泣きそうな顔で無理に笑ってごめんと謝って部屋の隅へと逃げた。
ここには逃げ場がないからしょうがないといえばしょうがないが、空気が重苦しくて叶わない。

今日は朝から何処か様子がおかしいことには気づいて居た。
日本にいた時からずっと一緒にいるから、分からない訳がないのだけれど、こう言う時は大抵情緒不安定で抱きしめて欲しい時である事は長年の経験と思い出と、勘で分かる。
口で言わなくても分かると思っているのだろうか。
まぁ実際、分かるけれども。

はぁ、とため息を一つ吐けば肩を跳ねさせて、目が合えば誤魔化す様に笑う。まるで小動物の様だ。
しかしそんなに可愛いものではないけれど。
小心者の癖に大きな態度を取って見えを張りたがる。強がって泣き顔も泣き声も何もかも押し隠す。
きっと、それを見られたら幻滅されるとか、離れて行くとか考えているんだろう。あいつは勉強ができる割に馬鹿だから。あぁ、頭が悪いってことだ。賢くないってこと。
つまり、その、アー…アレです、馬鹿正直。
勉強は出来るけど、考えが足りない。だからいつも一人で泣いて抱えて迷って悩んで放棄する。頼ることを知らない。
まぁそんなこと、頭の片隅にも無いんだろうけれど。それはそれで腹が立つ。


「…泣かないでください」
「な、泣いてないよ?」
「じゃあ泣きそうな顔をしないでください」
「そんな顔、」
「してますよ。目に涙を溜めて、今にも零れそうだ。零さないでくださいね」
「だ、いじょうぶよ。泣いてないもの。」
「そうですか。なら今その目から落ちた物はなんですか?」
「真珠よ。綺麗なの」
「へぇ、そうですか。透明な真珠か、聞いたことありませんね」


馬鹿みたいな無駄な嘘を並べて顔を俯かせる名前の頬に手を添えて上を向けされるとほら、やっぱり。
目からボロボロと涙を零して困った様に眉を下げて、それでも強がって僕を見上げて嘘を塗り重ねる。


「貴重だからね。滅多にお目に掛かれないんだ」
「そうですか。その割に腐る程持っているんですね、貴方は」
「…う、ん」
「その透明な真珠はどんな味がするんですか?」
「…さぁ」
「…無駄な嘘なんかつかないでください、時間の無駄だ」
「嘘じゃ、ない」
「うるさい。泣きたければ泣けばいいじゃあないですか。胸ぐらい貸してあげますよ。ほら、どうぞ」
「い、いいっ…いらない、泣いてない」


頑なに僕を拒む姿が妙にムカついて腕を掴んで乱暴に引っ張る。と、思ったとおりガクリと膝が折れて不安定な体制のまま僕のほうへと倒れてきたので抱き留めて腕をがっちり固定してやれば名前は驚いた声をあげたあと、バタバタともがき始めた。脚に靴が当たって中々痛い。
ヒールがひっかかって擦れると一張羅の制服も傷物だ。足跡がついているかもしれない。
じゃじゃ馬も良いがらたまには大人しく抱かれて欲しいものだ。


「大人しく出来ないんですか、君は」
「う、るさい…離してっ」
「黙ってろ。…君が、名前が何を考えているかなんて知ったこっちゃあないが、泣かれると迷惑なんですよ」
「っ、ごめ…」
「君が泣くと胸が痛い。ほら、ここです。ドクドク心臓が鳴ってキュッと締まる。」
「、え」
「…僕が貴方を突き放すなんて、そんなことあり得ない。だから頼れ。何年一緒に居ると思っているんだお前は。」
「は、るの…」
「名前が僕を助けてくれた様に…今度は僕が、名前を助ける。導いてやるさ、何度でも。いつまでも」


ぎゅ、と抱き締める腕の力を強めると名前は首に腕を回して僕に縋り付いた。
こんな馬鹿で脳足りんで頭の悪い名前だがそれでも、昔から変わらず僕の愛しい人なのだ。

じゃじゃ馬でも頭の悪くても無駄が多くてもそれでも僕は彼女が愛しくてたまらない。僕が居なければ何も出来ない所なんて一際可愛く思える。
馬鹿正直でギャングになんか向かない性格だろうに、それでもこうして僕についてくるような愚者。

最初から抱きしめて欲しいと言えば良いだけなのに。たった一言も言えない小心者。
そんな愚かで馬鹿なこの少女はそれでも、これまで僕を光へと導いてくれていたのだ。
だから、だからこそ。


「あぁ、ほら。綺麗な顔が台無しだ。泣き止んで、僕の為に笑うんだ。そうすると僕の胸は軽くなる。痛みなんかなくなるんだ。」
「は、るの…はるの、ありがと…」
「礼なんか要らない。欲しいのは君だけだ。昔から吐き出すのが下手で、馬鹿で愚かで小心者な君が欲しいからしたまでだ。」
「そ、れでも…あり、がとう」


ぐちゃぐちゃな顔で笑う名前の前髪を掻き分けてそっと額に口付ければ頬を朱に染めて大好きとほざくもんだから本当に僕の言った言葉の意味が分かっているのか、いないのか。
無性に腹が立ったので強引に口づければ驚いた顔をしてそれでも笑った。
あぁなんだ、ちゃんと届いていたのか。

三歳児

君のその愚かさは尊敬に値するね


短編でここまで詰め込むってことは…前作があるか、まだ続きがあるってことだ……それをないと言うなら…それはこの作品が意味のない物だと言うことになる…意味の無い物は嫌いだ…無駄だからな、無駄無駄…
ここまで無駄話ですね。無駄無駄ァ。
あと自分でも詰め込みすぎてよく分からなくなってます。ごめんね。
タイトルは舌様より
130606

 

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