佐伯はなにかしたいことはないの? まっすぐに俺を見つめて問いかけてくる名前に、少し、たじろいだ。 でもそれは本当に少しで、すぐに首を捻ってやりたいことを探す。 やりたいこと、したいこと。 みんなと一緒にテニスがしたい。 名前と二人で海で遊んだり家でのんびり過ごしたり、その、カップルがするような、そういうことも、勿論したい。 だけど、名前のいうしたいことっていうのはなんだろうか。 俺はますます首を捻って考える。 将来したいことなのか、今したいことなのか、死ぬまでにしたいことか。 若しくはなりたい職業とか、そういうものかもしれない。 考えれば考える程深みに嵌っていくようでこれだ、というものが見つからずに名前に視線を戻せば(いつの間にか視線は下に落ちていたらしい)相も変わらずじっと俺を見つめていた。 「名前のいう、したいことってどういうこと?」 「どういうって?」 「ほら、今したいことか、将来か、死ぬまでとか。それか職業とか、大まかには色々あるだろ?」 「あー、なるほどそういう。んん…じゃあ、高校でしたいこと」 「あ、そういうのもアリか。高校で、ねぇ…」 「そんな深く考えなくていいよ、簡単にさ」 「じゃあ、名前と一緒に居たい」 きょとん、と目を真ん丸にした後、カッと顔を赤くして俯いて、名前はもにょもにょと何かを言っていた。 聞き取れなかったから、ふかふかのソファから腰を上げて名前の座るベッドの淵に腰掛ける。 それから名前に顔を近づけて「なに、聞こえないよ」ってちょっと意地悪な言い方をしてみれば名前は耳まで真っ赤っかにして小さく「私も、」とだけ言って枕で顔を隠した。 「私も、なに?」 「もう、意地悪しないで!」 「やだな、分からないだけだよ」 「分かってる癖に、嘘つきだ!サエの嘘つき!」 「本当にわからないんだよ。ね、名前。言って?」 今にも泣き出しそうな程、もう爆発するんじゃないかって、それくらい真っ赤になって、蚊の鳴く様な小さな小さな声で、「私も一緒に、居たい」なんて可愛いことを言ってくれるから嬉しくて、知らぬ間に緩んでいた口許を隠すことなくそのままに名前の頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜる様に撫でればぐわんぐわんと頭を揺らして俺の名前を呼んだ。 名前、凄く可愛いよ。そう言ってぎゅっと、その小さい体躯をすっぽりと包み込めばわぁ、と声を上げた後、恥ずかしそうに俺の胸に顔をすり寄せて来た。 「もう本当、なんでそんなに可愛いの」 「別に、そんなに可愛くないよ」 「なに言ってるの。可愛い。好きだよ、俺、名前のそういう所も、全部」 「な、に…サエ、どうしたのいきなり」 「いきなりじゃない。ずっと思ってる」 「でも、いきなり言うなんて」 「恥ずかしい?」 「…とっても、すごく」 そう言ってまたぐりぐりと鼻先を俺の胸に引っ付ける名前が可愛くていじらしくって、それでいて愛しくってぎゅうぎゅうと腕に力を込めれば痛いよ、と言いながらも名前が笑った。 騒がしい沈黙 13.04.14
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