「ねぇ、サエ」
どうしたの、と優しげな声色で私に問いかけるサエをちらりと見やり、薄く笑って風でぐちゃぐちゃになった髪の毛を整えた。 それでも風は吹くから一向になおらない。 ああもう、と小さく呟いて髪の毛を放ったらかし、三角に立てた膝にコツ、と顎を乗せる。 あ、背中が痛いかも。なんて思いつつもう一度サエーと名前を呼べばさっきと同じように、どうしたのと聞き返してくるサエに何故か無性にムカついて馬鹿と言えばサエは笑って機嫌悪いねと言った。 わかってるなら言わなくてもいいんじゃない?
「よくわかったね」 「君のことならなんでも分かるよ」 「サエ、気持ち悪い」 「ひどいなぁ」 「…サエ、」 「んー?」 「虎次郎」 「…うん」
もう嫌だ、と小さく、本当に小さく声を漏らして隣のサエに雪崩込むように抱きついた。 何も言わずに頭を撫でてくれるサエに思わず涙が出た。 ぐすん、と鼻を鳴らせばサエは泣いてるの?と聞いてきた。 こくりと頷けばサエはぎゅっと抱きしめてくれた。 何がしたいのか分からない。そう言えばサエは小さくふふふと笑った。 何が面白いんだ、と顔を上げれば鼻をつままれた。 そのあと、両手で頬を包まれ、サエの、真っ直ぐな視線と私のゆらゆらと揺れ動く視線とが交わった。 「サエ、」「不安定、だね」「…ん、」「俺は嫌ったりしないよ」「…っ、」 生まれた時からずっと一緒にいたせいか、サエは私のことをなんでも知ってる。 考えてることも、行動も、癖も仕草も、何もかも知ってる。 悪いところも全部全部知ってて、それで嫌ったりしないと言ってくれた。 先ほど止まったはずの涙が溢れてきた。 不安定、まだ定まってないの。よく分からないの。 幼子のようにえぐえぐと泣きながらこのモヤモヤした感情を伝えれば俺も一緒だよと言ってサエは困ったように笑った。
そろそろ自由に生きればいいじゃない
貴方が私を嫌わないように私も貴方を嫌ったりしないわ
タイトルは自慰様より。 過去拍手です。
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