『道さん』

大好きな彼の名前を紡ぐ
大好きな彼の背をめがけてばふ、と抱き着く

「あ?なんだァ?」

すん、と彼の香りを確かめる
ちょっと汗くさいけど、大好きな匂い
あ、匂いフェチとかじゃなくて、ね

『み、ちさん』
「…なーによ、どうした」

口調とは裏腹に、優しく問いかける道さん

『みち、さ』

ズビッと鼻を啜る
涙が零れて、道さんのシャツにじわりと染み込んだ

「前、来い」

言われるがままに移動する
ぎゅう、と抱き締められた
腕を背中に回して、道さんのシャツを軽く握る
ひっくひっくと口から漏れる嗚咽は、確実に道さんに聞こえているんだろう

「何で泣くんだよ」
『わか、ない…でもっ、なんか…悲しい、の』
「不安か?」
『う、んっ…なんか、怖…くて、道さんが、日枝狼さんが…っ、離れて、いっちゃいそ、で』

ずるりと鼻をすう
ぼろぼろと大粒の涙がこれでもかと言うほど惜しげもなく流れる
ぼたりと床に落ちた
じわりと服に染み込んだ

「なまえ」

ぎゅう、と道さんの腕に力がこもった

「何処にも、行かねぇよ」

宥めるようによしよしと頭を撫でる道さん
私の大好きな大きな手
いつも、悲しそうに鞭を握る道さんの手
ぽんぽんと頭を撫でられて目尻が緩む
また涙が溢れた

『道さん、道さん』
「名前じゃねぇんだな」
『…日枝狼さん、日枝狼さん』
「ん、」
『大好き、です』

「俺は、」

ぐっと顔を近づけられる
鼻先が触れあうくらい近い
あ、キスしそう

「愛してる、けどねェ…?」

狂気を孕んだような声色に、ぶるりと体が震えた
後に赤面して、その顔を隠すように背中に回していた手をほどき、首に巻き付ける

『日枝狼さん、愛してます』

ふにゃりと笑えば、彼は愛しそうに笑ってぎゅううと私を抱き締めた

不器用な唇
 

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