「なまえ」

本に向けていた視線を、声のするほうに向ける
そこには、私の大好きな彼の姿が。
黄昏時、逢魔ヶ刻とも呼ばれるこの時間
校舎は静まり返り、物音ひとつしない。

「なまえ、?」

再び名前を呼ばれ、意識が浮上する

『あ、青太』
「うん、俺。帰ろう」
『うん、ごめんね』

単調に紡がれる言葉の数々。
その節々にさえ、愛を感じてしまう私は、もう相当彼に溺れているのだろう

「いいよ。それより、今日は何を読んでたの?」

あまり抑揚のついていない言葉に思わず笑みが零れる

『今日はね、小泉八雲の怪談の本』
「怪談?」
『うん、最近、四ツ谷先輩、って人が噂になっているでしょう?』
「あぁ、皆屋上に行ってる」
『だから、少し気になって』
「そっか。でも、なまえの口から他の人の名前、聞きたくない」
『ほんと?ごめんね』

いつの間にか握れていた右手に、力が込められた
だけど、痛くはなくて。
むしろ心地よく感じた。

『青太、』
「ん、なに?」
『私は、青太が好きだよ』
「うん」
『例え青太が、私を好きじゃなくなっても、他の人を好きになっても、私は青太が好きだよ』
「うん。」
『忘れないで、ね』

段々と、今以上に力が込められてゆく
ぎり、と音がしそうなほど
ぎりりと骨が軋みそうな程
力が、込められてゆく

『青太、痛い』
「あっ、ごめん」

さっきまでの痛みが嘘かのように痛みが消える
パッと手を離され、沈黙が続く

『青太、』
「…ん」
『私は、いなくならないよ』

腕を強く引かれ、ぎゅうっと抱きしめられる

『私は、ここにいるよ』
「うん」
『私、青太から離れないから。どんな青太も、受け止めるから。』
「う、ん」
『大好きだよ』

まだ中学生で、愛なんてよくわからないけれど
青太を思うこの気持ちは嘘じゃなく、本物で
大好きより、上の言葉を言いたいけれど。

私は臆病だから
私は、弱いから
愛してる、だなんて言葉で彼を縛りたくはない。
愛してる、だなんて言葉で、彼を、青太を私のものにはしたくない

だけど

「ねぇ、なまえ」
『なぁに、青太』
「俺のこと、愛してる?」

貴方がそれを求めるのならば

『…うん、』

私は、いつだって答えよう

『愛してるよ、青太』

すべては彼のため

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title by フライパンと包丁
一部改変させていただきました
彼女→彼

 

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