君と出逢った一週間 | ナノ

―…うん、うん…あのね、秋穂ちゃん、聞いて?
―…?違うよ!そういうのじゃないのー!あ、えっとね、私…
―私、ヤスくんに告白しようと思うんだ。

そう、なまえから電話が掛かってきたのは昨日のことだった。
昨日の夜、いきなり電話が掛かってきて出れば、今日ヤスくんとお出かけしたんだと開口一番に言われた。
よかったわね、なまえと言って小さく微笑んだ。
それからその日一日の話…といっても映画がどうのだとか、安原さんの私服がかっこよかっただのという、他愛もない話をした。
そして電話の最後に、冒頭のセリフを言ったのだ。
正直驚いたけれど、うまくいけばいい、と心の底から思った。
多分うまくいくんだろうけど、それでも気がかりで。
今日は朝早く起きて、着替えて神社にお参りに行った。
ここまでしなくてもいいって、分かってるけどやっぱりね。
なまえ…頑張ってね。

*
どくん、どくんと心臓がはねる。
今までこんなことをすることが無かったせいか、やはり緊張している。
昨日の帰り道、「明日、大事な話があるから夕方4時に学校近くの公園に来てほしい」と伝えれば笑って了承してくれた。
その時の笑顔が今でも心に残っている。
夕日に照らされた、とても温かく柔らかい笑顔。
携帯に張ってあるプリクラをひと撫でしてふぅ、と息を吐く。
もう、3時57分。
もうすぐ、ヤスくんが来るんだ。
春風が頬を撫でるように通る。
ふるり、と一つ身震いをして上着をぎゅう、と握る。

「よっ、おまたせ」
「うぇっ!?あ、ヤスくん!」
「…昨日ぶり」
「う、ん!昨日ぶり、です」
「ははっ、何緊張してんだよ」
「いや、えっと…その、」
「…大事な話って?」
「…あ、の」
「オウ」

重々しく口を開いて自分の気持ちをゆっくりと曝け出して行く。
ヤスくんは嫌がる素振りも喜ぶ素振りもせず、ただ相槌と打って、私の話を聞いてくれる。

「えっと、月曜日にヤスくんとあって…その、友達が増えて、嬉しかった。最初は変って言われてむくれてたけど、ヤスくんは他の人と違って、謝ってくれて…優しくて、」
「うん、」
「火曜日には挨拶してくれて、うん。その時からこう、心臓がきゅってなって…」
「オウ」
「水曜日と木曜日は助けてくれて…色んなヤスくんを見れて、嬉しくて。…だけど、そう思う反面…私を嫌って、離れて行っちゃわないかっていう、不安もあって…」
「…ん、」
「…金曜日にはお友達が増えて…それも、ヤスくんのお陰だし、嬉しかった。土曜日には、初めてヤスくんとお出かけして…かっこよくて、ドキドキ、して」
「…」
「そ、の…こ、恋とか初めてだから、よく分からないのです、が…わ、私…ヤスくんが、「待った」…え」
「その先、俺が言ってもいいか?」
「…はい」
「…俺もな、本気で恋とかしたことねぇんだよ。」
「ん、」
「不器用で、喧嘩早くて…俺、かっこよくねぇから彼女もできねぇし」
「は、い」
「…でもな、お前と会ってからな…なんつーかね、こう…柄にも無く照れて、心配して…」
「う、ん…っ」
「階段から落ちそうになったろ?お前」
「はい、っ」
「あん時、すげぇ心配になって…あぁ、俺お前が大事なんだなーって思ったんだよ」

ヤスくんの一言一言を聞き逃さないように、しっかりと聞き取る。
だけど、その言葉は私の取っては涙を促すだけのものにしかならなくて。
ぼろぼろと目から零れ落ちる涙を隠すように俯いて、顔を隠して嗚咽を漏らさぬように耐える。

「…俺、お前が好きなんだよ」
「っ!…ふ、く…っう、ぇえ」
「泣くなよ…返事、聞かせて貰えねぇか」
「わ、私…っ、私も、好き…!」
「そっか…俺等、両思いなんだな」
「は、い!」
「…こっぱずかしいから一回しか言わねぇからよく聞いてろよ」
「え、「好きだ、俺と付き合ってください。」…っよろ、こんでぇ、っうぇ、ふ」
「だーもうっ!泣くなっつーの!」

泣くな、と言いながらもその表情に一片の不安も無い。
明らかに嬉しげな声色に変わったヤスくんに、私は泣きながら笑えばきったねー顔、といって私の顔を自身の胸板に押し付けた。
好き、大好きとうわ言の様に呟けば上から聞こえてくる楽しげな笑い声。
そして時折返事に答えるかのよう二キスを落とす。

「よか、った」
「おー。俺もだ」
「…ヤスくん、」
「あ?」
「大好き、です」
「…可愛いこと言いやがって」

ハッと鼻で笑っていたけれど穏やかな面持ちで私を見ていた。
唇と唇が重なる。ほんの数秒間のことなのに、何時間も唇を重ねていたような感覚だった。
唇を離してふふふ、と笑えばヤスくんもつられるようにして笑っている。
私の隣で笑う彼と、いつまでも幸せな時間を共にしたいと思う。
出逢ったときから、大好きです。

日曜日
(君と出逢った一週間。)

-----------------
ええと、此処まで読んでいただきありがとうございました!
結構ごたごたしてて面倒だったかもしれません…途中からはもうごく普通の女の子になっていましたし…。
1週間ネタはサイト移転前からずーっとしたいな、と思っていました。
だいたい7話でお話が終了できますので…お手頃かな、なんて。
あー、えっと…これからも志隈ともどもよろしくお願いします!

12.03.28


prev next