君と出逢った一週間 | ナノ
お弁当を持って、今か今かと私はワクワクしていた。
だって、今日はいつもと違ってヤスくんとお昼を食べるから。
机にお弁当を置いて、両手でしっかりと掴んでニコニコ笑っていたらケンくんがはぁ、とため息をついた。
どうしたの、と聞けば何でもないといってはぐらかされた。
むっとしてもう一度どうしたの、と聞こうと口を開いたその時、教室の扉が開いた。
口を開けたままそっちを向けば菓子パンを片手に気だるそうな目をキョロキョロとさせているヤスくん。
来た、と呟きながら椅子から立てば、ガタンと言う音とおもにヤスくんがこっちを見た。
お、居た。そういってヤスくんは笑って私を呼んだ。
へへ、と笑ってヤスくんに駆け寄れば犬みたいだな、と言って朝と同じく、くしゃりと私の頭を撫でた。
んじゃ、行くかと言って私の手をとって一緒に屋上に向かう。
去り際に、ケンくんにじゃあね!と言えばおーと短い返事が聞こえた。

階段を上るとき、メガネの人と坊主頭の人がヤスくんに手を振っていた。
多分、ヤスくんのお友達なんだろうなぁと思って階段を上っていたら、ぐら、と視界が傾いた。
え、としか声が出なくて、頭が真っ白になった。
落ちる、と思って目をぎゅっと瞑っても、痛みは来なくて。
ゆっくりと目を開けばヤスくんの顔があって吃驚した。

「馬鹿やろ…ちゃんと前見てろ!」
「ごめ、なさ…」

ヤスくんに、怒られた。
私を支えるために抱きしめたんだろうけど、そのままの体制で怒鳴られたから耳が痛い。
それと同時に、罪悪感が沸いてきてじわり、と目に涙が浮かんだ。
もう一度ごめんなさい、と今度はしっかりとした声で言えばヤスくんはバツの悪そうな顔をして私の頭を厚い胸板に押し付けた。

「あー…っと、怒鳴って、悪い。怪我してねぇか?」
「だい、じょうぶ」
「悪かったな、怖がらせて…心配だったんだよ」
「うん、っ」
「ほんとに、痛いとことかねぇか?」
「う、ん…っ」
「・・・泣くなよ、」
「ごめ、ね」
「もう怒ってねぇからさ。泣くな」
「吃驚、して」
「あぁ」

ぐずぐずと鼻を啜る私を抱きしめながら、優しい手つきで頭を撫でてくれる。
時折ポンポン、と子供をあやすように背中を優しく叩いてくれて。
えぐえぐと泣き続ける私にごめんな、と何度も呟くヤスくんの背中に手を回せばキツク抱きしめてくれた。

「あり、がとう」
「いい、気にすんな。…つか、飯」
「あ…」

階段の踊り場を見れば、私のお弁当が転がっていた。
幸い、皆があんまり使わないほうの階段だったから当たった人もいないようで、ほっとした。
ヤスくんから離れてお弁当を取りに行けば、プラスチックの破片が飛び散っていた。
中身はぐちゃぐちゃになってて、あぁやっぱり、と呟けばやっちまったな、といつの間にかヤスくんが隣にいた。
私はヤスくんにダイジョーブ、と言って笑えば何が大丈夫だよ、と頭を小突かれた。
お菓子持ってるもん!と反論すれば、そんなんだから身長伸びねぇんだよ、と言って笑われた。
むっとして、別に気にしてないもんと言えばそうかい、と言って軽くあしらわれた。
ぐちゃぐちゃのお弁当を片付けて、もういいやと屋上に上がる。
飯食わねぇーのか、と聞かれたから、ヤスくんのがあるもんと言えば俺の食う気かよといって笑われた。

「だめ?」
「まぁ、一個ぐらいやるよ」
「やった!ありがとう、ヤスくん」
「パン一個でそんだけ喜んでくれんなら別に気にしねーよ」
「でも、ありがとう」
「オウ…さて、と。時間も無くなって来たことだし食うか」
「ん、美味しいよコレ!」
「・・・先食ってんじゃねーか」

はは、と笑ってヤスくんはパンを齧った。
一口頂戴、と言えばほれ、と言ってパンを差し出してきた。
持つのが面倒だったからそのまま齧れば横着してんな、と言ってヤスくんはまた笑った。
私のも一口あげる、と差し出せばヤスくんも私と一緒、オウチャクして齧った。
うま、と言って笑うヤスくんに、間接ちゅーだね!と言えばあ・・・と声を漏らしていた。

「ヤスくんと間接ちゅー」
「二回も言うんじゃねーよ!」
「ありゃ、ヤスくん嫌だった?」
「あ?…アァ!!?」
「私、嫌じゃなかったよーって」
「…別に、ヤじゃねぇよ」
「うふふ、それならよかった、よかった!」
「…そうかい」

それからヤスくんは、そっぽを向いてパンを食べてた。
ふふふ、と笑えば何笑ってんだ、と頭にチョップされた。
幸せなんだよ、と言えば食べ終わったのか、手をはたいてそっか、と言ってふわりと笑った。
その笑顔が大好きで、心がふんわり温かくてまた笑えば今度はヤスくんも笑ってくれた。


木曜日の昼下がり

(君と一緒にご飯を食べた。君も一緒に食べちゃった。)


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これが書きたかったんですよ…!


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