誇り高き至高の月 | ナノ

バルバッド編-14


宙に浮かんだ氷槍が広場に降り注ぐ。
逃げ惑う民衆の沢山の悲鳴が、スラム街に響く。

「ルシア、ロゼ!!」

「お任せを」

「はい!レン様、任せて下さい!」

ルシアの長剣が氷槍を切り裂き、ロゼが軽やかな動きで、人々の上に落下していくその氷槍の破片を蹴り砕く。
しかし、膨大な氷槍の数になかなか動きが追いつかず。
これではきりがない、ならば…

「ルシアとロゼは皆の避難を手伝って!私があの氷を何とかするわ!」

「しかし……」

「分かりました!ルシアくん行きましょう!」

ロゼが足を痛めた人を支えて誘導を始めるが、ルシアは動かない。
ルシアの物言いたげな表情から、彼が、私も逃げろと言いたいのだということが分かる。
でも、助けを求めと逃げ惑う人たち置いて先に逃げるなんてことはしたくはなくて。
大丈夫、私にはちゃんと力がある。
そう意を込めて微笑むと、ルシアが困ったように笑った。

「解りました。ですが、無理はなさらないで下さい」

ルシアが避難誘導を始めたのを横目に、忍ばせていた短剣を取り出す。
馴染んだ短剣の重さを感じながらレンは叫んだ。

「出でよ、バティン!」

短剣が蒼い長剣に姿を変え、現れた二匹の龍が両腕に絡みつき、威嚇するように啼いた。
武器化魔装だ。
それを落ちてくる氷槍に向け、一振りすれば粉々に一掃される。

「へぇ…お前も迷宮攻略者だったのかレン」

「ジュダル…」

「だけどなレン、これはマギ同士の戦いだ!…邪魔は許さねぇぞ!!」

パチパチと、ジュダルの杖が電気を帯び始める。
危険を察して大きく離れると、私が直前までいた場所に大きな雷が落ちた。
大きく焼け焦げた大地。
流石マギ、その強さは計り知れず勝てる気がしない。
ジュダルとの間合いをつめることができれば金属器で応戦することはできるけれど、魔法を使うことができない私にはあの雷撃から身を守る術がない。

「こうなると分かっていれば魔導師を連れて来たのに…」

標的を再び青い髪の少年に戻し、杖を振るうジュダルに悔しげにつぶやくと背後に気配。
振り返ると、すぐ近くにシンドバッド王が立っていた。
彼の瞳が捉えているのは、私の金属器。

「君も…フリーア王国も迷宮攻略に踏み出したのか」

「はい、攻略者がいないということだけで、他国に侮れるわけにはいきませんので」

「…そ、そうか」

言い過ぎてしまったようだ。
傷ついたようなシンドバッド王の表情に、思わず心の中で頭を抱える。
仮にも相手は一国の王。
敬愛する従姉、第一王女の苦渋の思いを踏みにじったとか、許せないところはたくさんあるが、仮にも一国の王。

「も、申し訳ありません。少々気が立っているようです…お話は後ほど、で構いませんか?」

「いや、こちらこそすまない。まずは彼らを何とかするのが先決のようだしね」

「「……」」

気まずい沈黙。
慌てて弁解をしたが、相手の気を悪くさせてしまったのは確かだろう。
後できちんと謝罪をしなければならない…。
そんな風に別のことに意識が向いているうちに、マギ同士の、いや、ジュダルの一方的な攻撃は激しさを増していて。

「ほらチビ!どうした!!」

降り続く氷槍の雨。
その中の一際大きな氷槍が真っ直ぐ、青い髪の少年とジンに向かって飛んでいくが、ジンはその氷槍を簡単になぎ払って破壊した。

「へぇ、やるじゃん…これならどうだ!!」

倍、なんて数じゃない。
先ほどの氷槍よりも大量の氷槍が出現する。
そしてその氷槍は青い髪の少年とそのジンを狙って、一斉に降り注いだ。

「ウーゴくん!!」

青い髪の少年の声に、ジンが高く飛び上がり氷槍をかわす。
そしてそのまま、宙に浮かぶジュダルを地面へと叩きつけた。
しかし咄嗟に防壁魔法をかけたジュダルに、攻撃は効かなかったようだ。

「ははっ!つえーじゃんそいつ…でも、これで勝った気になんかなってねーよな!?俺の氷はまだ残ってるんだぜ?」

「危ない!上よ!!」

レンはまだ宙に浮かぶ氷槍に気づき、声を上げ注意を促した。
しかしいきなりのことに、青い髪の少年は対処が出来ず。
動けない少年を庇ったジンの背に、全ての氷槍が突き刺さった。


「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -